いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

アウグストゥス

ジョン・ウィリアムズ著『アウグストゥス
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私の愛読書『ストーナー』の作者だ。彼は生前3作の長篇(処女作は本人が認めていないため数に含めていない)を残していて、本作が彼の遺作である。私はこれまでに他2冊を読んでいるので、私にとっても彼の最後の作品となる。

 

前の2冊が本当に面白かったので、とても期待して読んだ。さらに本作は著者の最高傑作とも称されており、現に全米図書賞も受賞している。

 

ただ結論から言うと、その高い期待値を越えられなかった。私は前2作の方が好きだったのだ。順位をつけるならば、1位が『ストーナー』で、2位が『ブッチャーズ・クロッシング』、そこからだいぶ下がって、本作は3位となるだろう。

 

ただ、だからといって本作は決して駄作だというわけではない。あくまで好みの話だ。作品性、小説としての技巧性という面では、他の2作を圧倒している。そのような点が評価され、偉大なる賞を受賞したのだろうと納得できた。

 

本作はいわゆる『書簡小説』と呼ばれる形態で、手紙や回顧録、各種文書の断片のみで構成されている。当然、各書簡の筆者は異なる。様々な視点、様々な声で、ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの物語が、語られていくのである。

 

書かれている文章も、他の作品同様にとても素晴らしいものだ。どこが素晴らしいのかをうまく言語化できないのだが、クセや淀みがなく、とても流暢で、とにかく読みやすいのである。

 

それでもなかなか読んでいて勢いに乗れなかったのは、登場人物達の名前が似つかわしく、誰が誰だかを見失いがちになるからであろう。私の歴史に関する知識のなさもあるのだろうが、如何せん、ローマ人の名前はややこしすぎる!

 

きっと名前問題がなければもっと前のめりに楽しめただろう。もう一度読んだら感想が変わりそうだ。ただ、技巧性に特徴がある作品ゆえ、すぐに読み返しはしないだろう。前2作の方が、それより早く読み返したくなるに違いない。

 

なんにせよ、これでジョン・ウィリアムズの作品をすべて読み尽くしてしまったかと思うと、本当に切ない気持ちになる。好きな作家が故人で寡作な人だと、なんとも不幸なことだ。

 

ただこの作者との出会いには心から感謝したい。残された作品達を何度でも読み返そう。