いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

彼女の町

面白い歩き方だ。娘の後ろを歩いていて改めて思った。

 

彼女は腕を大きく振り、まるで行進するかのように歩く。そこに鼻歌を常備、顔には茶目っ気溢れる笑顔が張り付いている。さながらトトロのメイちゃんのようだ。

 

妻がスーパーに買い出しに行こうと口にすると、「○○ちゃんも、いくー!」と娘は元気に叫んだ。そそくさと靴を履いて、誰よりも先に玄関の扉の前で待機する。

 

そして外に出るなり、「こっち、ついてきて!」と言い放ち、我々を先導しながら一番前を歩くのだった。

 

階段があれば登りたがり、路傍の縁石を見ればその上を進む。私たちはその時々の危険度を見ながら、ときに手を繋がせ、抱っこして、スーパーまでの道を歩んだ。

 

スーパーの中でも娘は元気いっぱいだ。買い物かごをもった人々の間をやや危なげにすり抜けながら、大股で闊歩する。当然、迷惑にならないよう基本的には制御するのだが、昨日は一時娘に振り払われた瞬間があった。

 

私は彼女を追いかける。娘は子供用の小さなカゴの前まで辿り着くと、それを手に取り、満足そうに笑い声をあげた。時間帯によってはそのカゴが出払い、無いこともあるので、ゲットできたことが嬉しかったのだろう。

 

そんなとき、娘に親しげに声をかける家族連れが現れた。娘の名前も呼んでいるので、どうやら知り合いのようだ。女性は娘と同じくらいの女の子を抱え、その後ろにいる旦那さんらしき人も小さな子供を抱えている。

 

私はとりあえず会釈をしながら、娘を連れ、妻の元まで戻った。聞くと、同じプレ幼稚園で仲良くしている家族なのだそうだ。すれ違い様、娘は同級生の子に対して「ばいばーい」と言い、大きく手を振っていた。

 

ついに近所で知り合いにすれ違うほど、この町でも関係性が築けたのか。なんだか感慨深く感じてしまった。思えばその関係は、娘を中心に据えたものばかりだ。

 

スーパーの警備員さん、マンションの管理人さんにも娘は覚えられている。元気いっぱいで馴れ馴れしい娘は、とにかく印象に残るのだろう。

 

マンションも買ったわけだし、この町が娘の故郷になることは、ほぼ間違いない。願わくば、彼女にとって住み心地の良い町になってくれんことを。