いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

カマキリの捕食

視界の端に緑が舞い降りたので、娘を呼んだ。

 

それが何者かもわからぬままにそっと近づくと、立派なカマキリだった。私はそっと網を下ろし彼を捕獲、娘が首から下げた虫かごの中にそれを入れた。

 

今日は午後から網と虫かごを持って緑地公園を訪れていた。娘が幼稚園でもらった『秋と冬の自然図鑑』を片手に、虫取りをしようと思ったのだ。

 

一番の獲物候補はカマキリ、そう意気込んで来たのだが、なんと開始10分ほどで偶然にも、その大物を捕まえることができたのだった。

 

図鑑と見比べると、おそらくオオカマキリだと思われた。虫かごを覗き込み安全圏からまじまじと観察する。改めてじっくり見てみても、好戦的で凶暴そうな面構えをしている。

 

しかしどうしよう。先にカマキリをカゴに入れたが為に、他の虫を捕まえられなくなった。なぜならカマキリが食べてしまうからだ。そう娘に伝えると、でも彼に餌が必要なんじゃないかと言い出した。

 

なるほど、娘は既に愛着をもったカマキリ側の目線で物事を見ているらしい。つまりはバッタが食べられて可哀想、とは思わずに、捕まえたカマキリに餌をあげないと可哀想、という考えにあるようだ。

 

それならと思い、捕まえたバッタを同じカゴに入れてみた。ドキドキしながら娘と観察していたが、カマキリはバッタの前を素通りするばかりだった。

 

なんだ思ったほど凶暴ではないのか。そう安心した私たちはカゴを置いて他のことをしはじめた。娘は妻たちと遊び、私はしばしシートの上で微睡んだ。

 

「パパ、たべてる!!」

 

そんな娘の大声で起こされた。慌ててカゴを見ると、カマキリがむしゃむしゃと口を動かしていた。本当に食べるんだ。カマキリの捕食シーンを生で見たのは私もはじめてのことであった。

 

細かな描写は自粛するが、息を呑んでその様子を娘と観察していた。生き物が生き物を食べる。自然界においては当たり前のことなのだが、それがリアルに実感できて貴重な体験だったと思う。

 

公園から帰る際、家で飼いたいと言いだすかと思っていたのだが、娘は迷った挙句、カマキリを自然に帰してあげようと決断した。

 

カゴを開け放つと、カマキリはのっそりとそこから出てきた。威風堂々、特に慌てる様子も見せない。草のところまで運ぼうと私が胴体を掴むと、「それ、いたくないの?」と娘が聞いてきた。

 

カマに触れない掴み方を教えると、娘は自分でもひょいと掴んだ。それを見て妻も驚く。確かに女の子でカマキリを掴める子はどれくらいいるだろうか。

 

その後少し戯れた後に、娘はバッタがたくさんいるであろう草むらにカマキリを放してあげていた。最後までカマキリびいきな娘なのであった。

 

それにしても、自然が豊富な緑地公園が近所にあるおかげで、娘の野生的な経験値は高まる一方だ。