いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

雄を求めてナイトウォーク

目覚めると、夏休み気分に切り替わっていた。

 

良い兆候だ。前日までの仕事を綺麗に収められた何よりもの証拠である。足元では息子が眠っている。どうやら私はアラームもないのに平日と同じ時間に目覚めてしまったようだ。

 

イヤホンを耳につけ瞼を閉じる。ラジオを聴きながら現実と夢の狭間を気ままに泳いでいく。数時間後、息子が泣いたので妻の元に届けお乳をあげてもらった。それを機に私も布団を離れ、ソファに腰掛け文庫本を開く。なんとも優雅な朝だ。夏休みの初日に、これ以上ないほどにふさわしく思えた。

 

そのように始まった今日だったが、メインイベントとしては夜に照準を絞っていた。今後の天気予報をみた限りでは、数少ない貴重な晴れが今夜だった。

 

そんなわけで、今夜は近くの緑地公園におけるナイトウォークを敢行した。目的はカブトムシの捕獲。それも是が非でも“オス”をである。

 

我が家には幼虫から育て上げた3匹のメスがいる。そのお婿さん探しが、我々の急務だったのだ。私が夏休みに入ったら捕まえに行こう、それを早々に実行に移したわけである。

 

夕食を済ませ、家族みんなで緑地公園へと出かけた。虫刺されの対策をし、昼間のうちにヘッドライトも購入していた。樹液のでるスポットは既に認識している。事前準備は万全だった。

 

夜の公園は初めてだったので少し怖かったが、行ってみると同じように虫取り網をもった家族連れも多かった。競争率は上がるものの、安心感はある。

 

樹液の出る木の前まで行ってみると、やはり夜とは違う昆虫が樹液に群がっていた。さっそくメスのカブトムシを発見する。やっぱり夜はいるんだ。捕獲の現実味が湧いてきて、いっそうやる気に漲る。

 

その後もヘッドライトをつけた娘が次々にメスのカブトムシを見つけた。一応捕まえてもってきたカゴの中へといれる。テンポよく4匹を捕まえた。

 

しかし肝心のオスはなかなかいなかった。他に来ていた人たちも同じ状況のようで、メスは捕まえられるもののオスはなかなか見つからないようだった。

 

それでも私たちは諦めず、スポットを変えつつ歩き続けた。ライトで木々を照らし、たまに躓きながらも、暗い雑木林のなかを勇敢にも進んだ。

 

そしてついにその時が訪れる。向けたライトの先で大きな黒い影が動くのを捉えたのである。「いた!オスいた!」私は皆を集め、娘から虫取り網を受け取る。背伸びしてやっと届く位置。まずは網を被せ、徐々に手の届く位置へとじりじり導いていく。

 

指で掴むときは自分でも驚くほどに冷静だった。しっかりと捕獲し、そのままカゴの中にいれる。蓋を閉めたのを確認した後に、娘と喜びを爆発させた。「やった!やった!」。私にしても生まれて初めて自分で捕まえたオスのカブトムシであった。

 

結局捕まえられたオスはその1匹だけだった。帰るときには捕まえた4匹のメスは森へと返してあげた。オスだけを持ち帰り、さっそくケースの中に離す。徐々にメス達も彼の元へと集まってきた。

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これはうまくいけば産卵までいけるかもしれない。カブトムシをめぐる夏のメモリーは、まだまだ楽しい展開がありそうだ。それにしてもオスのカッコ良さよ。雄々しい角に、いつまでも見惚れてしまう。