いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

レディ・マドンナ

湯船をちゃぷちゃぷ言わせながら娘が近寄ってきた。

 

「ちょっと、ひつれい」

 

そう言うと娘は、私の横の僅かなスペースに身体を滑りこませてきた。自然と口にでたその言葉は、妻が遅れて浴槽に入ってくるときなどに使っている言葉だった。

 

私と妻は思わず吹き出してしまった。いつも思うことだが、小さな子供が“大人びた言葉”を使うのはとても面白い。そしてそのギャップが堪らなく可愛いのだ。

 

私たちに“ウケた”ことで娘は気をよくしたのか、浴槽内をぐるぐると回り、私の脇を通るたびに「ちょっと、ひつれい」と言う遊びをやりはじめた。

 

「あら、ひつれい」

「ひっつれーい」

「ちょと、ひつれい」

 

流し目をこちらに寄こしながら、そのように連呼する娘の姿を見ていると、私の頭の中に「レディ・マドンナ」というフレーズが浮かんできた。そしてそれと同時に、ビートルズの軽快な楽曲が流れ始めるのだった。

 

Lady Madonna,children at your feet
レディ・マドンナ、足元には子供たち
Wonder how you manage to make ends meet
君はどうやって家計をやりくりするの

 

調べてみると、その楽しげなテンポとは裏腹に、歌詞ではシリアスなことが歌われているみたいだ。作家、伊坂幸太郎の作中にでてくる「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」という好きなフレーズが浮かんだ。やっぱりビートルズは偉大だな、と改めて思った。

 

話は逸れてしまったが、我が家のレディ・マドンナは現在幸せそうにベッドで眠っている。彼女に深刻さなんて皆無だ。そんな彼女に送る曲ならば、歌詞はこんな感じだろう。当然、英語なんてのは書けないけれど。

 

レディ・マドンナ、足元にはオモチャたち
君はいつになったらそれを片付けてくれるの

 

おや、そうこう言っている間に娘が起きたみたいだ。

ちょっと、失礼。