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文学パパが綴るかけがえのない日常

職業としての小説家

村上春樹の『職業としての小説家』を再読した。
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おそらくこれで4回目くらいの読了だろう。なぜだか折に触れては読み返したくなる本だ。平易な文章で書かれており、村上の人柄が随所に滲み出ている。

 

小説家として歩んだ35年間のキャリアを振り返りながら、小説を書く上で大切にしていることや、そのスタイルを率直に語ってくれている。彼のファンにしたら堪らない内容だ。また小説を書くことに興味を持っている人たちにとっても、刺激を受けるものではないかと思う。

 

中でも私は、村上のデビュー作である『風の歌を聴け』を完成させるまでのエピソードが好きだ。自営業でバーを営む傍ら、村上は仕事終わりに夜な夜な小説を書いた。最初に書き上がったものは面白くなかったそうだ。

 

そのとき軽い失望感を抱いたのだが、村上は諦めず、別のアプローチを試みることにした。試行錯誤の末、彼は音楽的な響きを持つ「新しい文体」を獲得する。そしてその文体を用いて物語を最初から書き直してみた。そうして完成した作品が、その後『群像新人賞』を獲り、村上のデビューを導いた『風の歌を聴け』の現版だ。

 

私もこの作品が大好きでこれまでに何度も読んだ。大学時代、ニュージーランドに2週間バックパッカーとして旅をした際には、この小説だけを持ち歩いていたため、旅の中で3度も繰り返し読んだ。本当に不思議な小説だ。あらためて久しぶりに読み返してみたくなった。

 

それにしても、村上春樹はやはり偉大な作家だ。40年もの長い間、世界中の人々を魅了する作品を生み出し続けているのだから。そして未だに挑戦を続け、新しい作品をコンスタントに発表し続けている。

 

なにより「ただ好きだから小説を書いている」というスタンスが、嫌味なく伝わってくるから良い。文章を書くのが好きで、だからこそ小説を書き続ける。それを出すたび世界中で売れ、多くの人を喜ばせているのだ。

 

芸術家の誰しもが憧れるサイクルではないだろうか。それを実現できるのは天賦の才能があってこそなのだが、彼の場合は、なぜだか妙に親しみを抱くことができる。

 

本人も言うように、人としてとても「普通っぽい」んだよな。そこがなんともいえない彼の魅力のひとつだ。