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文学パパが綴るかけがえのない日常

【愛読書】ティファニーで朝食を

トルーマン・カポーティの『ティファニーで朝食を』を再読した。翻訳は村上春樹版である。

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学生時代に読んで以来二度目だ。当時読んだ本は友人に貸したまま譲る形となった。手元になかったため今回改めて購入した。これは本棚に置いておきたいと思っていた本なので躊躇はなかった。

 

これが私にとっての初のカポーティ作品だった。当時とても感銘を受けたことだけは覚えている。そのためカポーティはすっかり好みの作家だと思っていたのだが、先日別の短編集を読んだ際、そこまでしっくりと馴染まなかったので首を捻っていた。

 

もしや今作も改めて読み返してみたら失望を味わうことになるのか。そんな懸念がないわけではなかったが、再読してみてほっと胸を撫で下ろす。やっぱり傑作だ。今読んでも最高に私好みの作品である。

 

解説を読むと納得感を覚えた。どうやらカポーティは今作を境に、文体や作品の書き方を大きく改革したそうなのだ。どうりで今作以前の作品を読んでもいまいち馴染まなかったはずだ。私は今作から始まったカポーティ後期の文体が好みなのだろう。

 

今作は何より文体が素晴らしい。本当に理想系といってもいいような文章で物語が紡がれている。まさに黄金比。どんな文体を会得したいかと問われれば、「この作品のような文体」だと答えることだろう(気分次第で回答は得てして変わるものの)。

 

明瞭で簡潔。リズミカルで軽快。比喩も巧みで表現もウィットに富んでいる。添削のしようもないほどに無駄もない完璧な文体である。訳者の村上春樹も絶賛しており、世界的にも評価が高い。

 

もちろん物語としても面白い。それは映画化されている事からもわかるだろう(だいぶ脚色されているが)。ヒロインのホリーはとにかく魅力的だし、それに振り回される主人公の人柄にも好感がもてる。

 

また本書には表題作以外にも3作の短編が収録されている。どれも読みやすくて面白かった。一冊を通して総合力の高い満足感が得られる本だと思う。

 

今後も何度でも手に取り読み返すことだろう。やはり再購入してよかった。次はカポーティ後期におけるもう一つの名作『冷血』を読んでみようと思う。