ヘミングウェイの『移動祝祭日』を読了した。
ヘミングウェイのパリでの若き日を記したメモアール(回想録)である。彼の作品は長篇、短篇と読んできたので、今回はエッセイを手に取ってみた。
読み応えがありとても面白かった。綴られる文章も、作品のときに見せる病的なまでのストイックさからはいくらか離れ、良い感じに肩の力が抜けており読みやすい。
作品においては敢えて制限している形容詞の使用や、機知に富んだ比喩、内省的な描写なども見られ、「こんな文章も書けるんだな」と新鮮な気持ちで読んだ。当たり前だけど、やはりとんでもなく文章が上手い。
達筆な人の書くエッセイは本当に面白い。その人のことに興味があれば尚更だ。若き日のヘミングウェイが、どのように己の作品と向き合い、文学に対して情熱を燃やしていたかを知れて、彼のことが一層好きになった。
また盟友フィッツジェラルドもしばし紙面に登場し、彼を知る上でも興味深かった。ちなみに、大好きな映画『ミッドナイト・イン・パリ』でもこの時代は描かれていたので、また映画を見返したい気持ちになった。
ヘミングウェイの文体はシンプルなゆえに、翻訳の善し悪しがモロに出てしまいそうだと、読みながらいつも感じている。細かい言葉選びによって、作品から受ける印象もだいぶ変わってしまいそうだ。
ただ幸いなことに、私がこれまで読んだ3作における訳者たちは(土屋政雄、柴田元幸、高見浩)、いずれも素晴らしい仕事ぶりだった。優れた訳者を選んで読むということも、海外作品を読む上では重要なことだろう。
ヘミングウェイへの興味は尽きないが、次に読みたい作品がまだ見つかっていないので(戦争がテーマの長篇は気が重い)、一旦は別の作者へと興味を移そうと思う。ただ、またいずれ、彼の作品は読むことになるだろう。