青と橙のチューリップが寄り添うように描かれていた。
2本のチューリップは同じ大きさではなく、青のチューリップが橙よりも少しだけ背が高い。
娘はその絵を見つけると、急に笑顔になった。
そして青いチューリップを指さして言う。
「こえ、ぱぱ」
次に橙を指さして自分の名前を言う。
「こえ、○○ちゃん」
言い終わると、娘は振り返り満面の笑みを私に向けた。
*****
場面は、お風呂場。
我が家のお風呂場の壁には、100均で買った『あいうえお表』が貼り付けられている。
「あ」~「ん」の文字のところに、それぞれ子ども向けのイラストが描かれているものだ。
昨日は私と娘の二人でお風呂に入っていた。
娘は最近買った子ども雑誌の付録『アンパンマンおふろシール』を、水で濡らしては壁にぺたぺたと貼り付け遊んでいた。
最初は同じく付録でついていた『おふろポスター』にシールを貼っていたのだが、他のところにもくっつくことを発見すると、娘はいろんなところにシールを貼り付けはじめた。
そして、前述の『あいうえお表』にもシールをぺたぺたと貼り付けだしたのである。
10枚弱あるキャラクター達のシールを貼り付けていくと、『あいうえお表』の一角はすっかりシールで覆われていった。
すべてを貼り終わると、娘は「もういっかい」と人差し指を立て、自らでシールを剥がしはじめた。
冒頭のシーンは、そこで訪れたのである。
ドキンちゃんのシールを剥がすと、そこには「ち」の欄に2輪のチューリップが描かれていた。
そして娘には、その仲良く寄り添う2本のチューリップが、パパと自分に見えたらしいのだ。
私がきゅんっと、トキメイてしまったのは言うまでもないだろう。
なにげなく放った娘の言葉が、こうやって書き記しておきたくなるほどに、私の大切な宝物になったのだ。
その後、娘は他のシールも楽しそうに剥がしていった。
そして「ひ」の欄には、チューリップと同じように、2輪のひまわりが描かれていた。
それを見た娘は、またひとつひとつを順番に指さし、今度は「まま」、「○○ちゃん」と言った。
そしてもう一度、チューリップの方も指さし「ぱぱ」、「○○ちゃん」。
ひまわりを指さし「まま」、「○○ちゃん」と繰り返し言った。
振り返り、白い歯を見せ笑う娘。私はそんな娘を思わず抱きしめてしまいたくなった。
これを下心なしでやってるんだから、子供は恐ろしい。
こんなにも人を骨抜きにする素敵な言葉を、さらりと言ってのけるのだから。
思春期になって娘がこの調子なら、そうとう数の男子をたぶらかしてしまうのではないだろうか。
道端に咲いた2輪のタンポポをみて、「〇〇君と私みたい。」なんて無邪気に笑顔で言われたら、男子中学生なんて一瞬で恋に落ちてしまうだろう。
娘がモテないのも嫌だけど、モテ過ぎるのもいかがなものか・・・。
なんて、勝手に将来を悶々と憂う父親を尻目に、娘は楽しそうにシールで遊んでいたのであった。