いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ひとり暮らし

ひとりぼっちの生活がはじまった。

 

昨日から妻と娘が実家の福岡に帰省したのだ。

 

妻は一足先に夏休みに入り、お盆になったら私も九州で合流し、それぞれの実家を巡る。結婚して以来、我が家では毎年恒例にしている流れだ。

 

妻は7月末に開催される大学の『テニス部OB会』に参加することを楽しみにしている。そのため毎年それに合わせ、このタイミングで帰省するのだ。

 

つまり、私は今日からお盆までの約2週間、この家でひとり暮らしをすることになる。

 

そのため、昨日は会社に出勤する前、いつも以上に名残惜しさを感じながら「いってきます」を妻と交わした。

 

娘は残念ながら眠ったままでのお別れだった。すやすやと寝息をたてる娘の顔をしばらく眺め、私は娘に2週間の別れを告げた。

 

仕事が終わると、家に帰っても夕食がないため、会社の近くを散策し食事処を探した。いつもはまっすぐに帰宅するため、会社の近くにどんな店があるのかあまり知らないのだ。

 

Googleマップにらめっこしながら歩き回る数十分。オフィス街なので飲み屋ばかりで、なかなか純粋な食事処は見つからなかった。(私は付き合い以外での飲酒はほとんどしない)

 

結局タイムオーバー的に力尽き、わりと近場にあったラーメン屋に入ることにした。

 

所謂「ガテン系ラーメン」という種別で、言い方は悪いが、見た目が“家畜の餌”みたいな山盛りのラーメンが売りの店だった。

 

妻と娘とは絶対にいけない店だ。それゆえに、こんなときだからこそ行ってみようと思ったのだ。

 

野菜や油、ニンニク等が無料で「増し増し」にできるシステムだったが、私は初心者なのですべて「普通」で頼んだ。出てきたものは、ボリュームも思ってたわりに普通で、味も結構おいしかった。

 

しかしニンニクが効き過ぎていたのか、今でも口の中のニンニク感がぬぐいきれていない。こういうものは週末に食べるべきだな、と後になって反省した。

 

家に帰り着くと、あたりまえだが誰もおらず、部屋は真っ暗だった。

 

いつもはクーラーがついているが、それもついていない。もわんとした重苦しい空気が家の中を包んでいた。

 

私は首から噴き出す汗をぬぐいながらクーラーのリモコンを探した。今日からこのような帰宅がはじまるんだな、少しだけ気持ちがくじけそうになった。

 

服を着替えていると、妻からLINE電話があった。映像付きのテレビ電話だ。応答すると、画面には娘がうつった。

 

娘もこちらをまっすぐに見つめていた。私の顔を確認したのか、表情がぱっと明るくなる。

 

「あ、ぱぱ!」

 

こちらが嬉しくなるほどに、はしゃいでくれる娘。「ぱぱ、ぱぱ」とこちらを指さし、踊るように足をばたばたとさせていた。

 

「かんかんせん、のった」

 

新幹線に乗ったことを笑顔で報告してくれる。また、実家においてあるクマのぬいぐるみとももう仲良しになったのか、友達のように紹介してくれた。

 

娘は実家でもいつもどおり楽しそうだ。私はそんな娘の姿をみて、少しだけ元気がわいた。

 

十数分ばかり話をして電話を切ると、ふたたび家には静寂が訪れた。

 

大丈夫、こうやって顔は毎日でも見られるんだ。私はそう自分に言い聞かせた。

 

サミシクナンカ、ナイ。

 

せっかくのひとり暮らし。

 

いつもはできない、ひとりならではのことをして、満喫シテヤルンダ。