いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

奇妙な行動

お皿を洗っていると、急に娘から呼ばれた。

 

なぜだか小声だ。「ぱぱ、きてきて」と手招きをされる。なんだろうと思い水を止め、手を拭いて、キッチン入り口のベビーゲートを抜ける。

 

身をかがめ娘に寄り添うと、立てた人差し指を口にあて、「しぃー」とされる。演技じみた小声は継続中だ。

 

私が後ろについたのを確認すると、娘は壁づたいに身を進ませ、柱に手を掛けてそっと和室を覗き込きこんだ。

 

すぐに振り返り、「ぱぱ、みてみて」と手招きする。今度は私も娘と一緒に柱から頭だけを出して、和室の中を覗き込んだ。ひっそりと誰かを観察するような姿勢だ。

 

娘の視線の先には、なにもなかった。

 

そこにはいつもどおり、オモチャのキッチン台があり、その上にはいくつかの食材と料理道具が置かれていた。

 

それでも娘はひきつづき、柱から頭だけを出して、誰かを尾行するかのように和室の中を覗き込んでいた。相変わらず小声で、顔には笑みが張り付いている。

 

しばらくそんな娘に付き合い、探偵ごっこのようなその遊びを楽しんだ。私が離れて再び皿洗いに戻ると、そのたび引き戻され、同じ事を繰り返すのであった。

 

とにかく可笑しな行動だった。私はその場では笑っていたが、娘の意図を汲み取るまでには至らなかった。

 

しかし、この文章を書きながら、ある仮説が浮かんだ。

 

あれは前日のママの真似ではないか。

 

その前日、和室のキッチン台でひとり遊びに興じている娘を、妻が隠し撮りしていた。人形達との会話も交え、料理を振る舞う娘の姿があまりに可愛かったので、思わずビデオを回しはじめたのだ。

 

娘がカメラに気付き遊びを中断しないよう、妻は柱の陰から頭だけを覗かせ、その様子をひっそりとカメラに収めた。もしかすると、娘はこのときの妻の真似をしているのかもしれない。

 

もしそうだとしたら、すごい想像力だ。柱の陰に隠れる妻の様子から、その前の見えていない動作までをも想像し、再現してみせたのだから。(少し違っていたが)

 

面白い遊びをするなぁ。そして本当によく見ている。娘の行動のベースに、私と妻の振る舞いがあるのだろう。

 

そう思うと、少しだけ申し訳なくなる。奇妙な娘にして、ホントごめんよ・・。