吉本ばななの『TUGUMI』を読了した。
吉本ばななの作品はこれまでに4作読んでおり、小説としては3作目となる。『キッチン』と『デッドエンドの思い出』を遙か昔の学生時代に読んだ。
いずれの作品も、物語の内容は全くもって覚えていないのだが、「とにかく読み心地が良くて素敵な作品だった」という感覚だけは残っている。
そして今回の『TUGUMI』も、数年後にはそんな感想がよみがえるのではないかな、という予感がある。
容姿は美しいが、口が悪く、わがままな少女つぐみ。そんな主人公が恋をする、ひと夏の思い出が瑞々しいタッチで描かれている。淡くて切ない青春物語だ。
私がもっと若く、少なくとも学生時代までに読んでいれば、もっと多大なる影響を受けたかもしれない。この歳(30代既婚)で読むと、とにかく眩しくて、甘酸っぱくて。物語に入り込むというよりは、青春時代の懐かしさばかりを感じてしまった。
ただ、やはり“文章”としては大いなる刺激をもらえた。吉本ばななの書く文章は、このような初期作品においても非常に洗練されている。
角の取れた丸みを帯びた優しい文章。淡泊な活字から、人の温もりをにじみ出させる技術は一級品だ。
そしてなにより読みやすい。さらさらと読み進めていけるのに、しっかりと身体に暖かさがしみこみ、満腹感が得られる。なんだかお茶漬けのような素敵な文章だ。
また今作は連載小説だったこともあり、各章の「書き出し」と「締めくくり」に趣向が凝らされている。1章だけをつまみ読みする読者に対しても、ぐっと惹きつけ、気持ちよい読後感を与えるだろう。文章を書く上でたいへん勉強になった。
吉本ばななについては、これからもいろいろな作品を読み漁っていきたい。とにかくまだまだ未読の作品が数多く残っているので、食べ終わるという心配はなさそうだ。一生の付き合いになっていくことだろう。