吉本ばななの『ミトンとふびん』を読了した。
すこぶる評判が良かった本作。谷崎潤一郎賞までとったということで読みたくなったので、図書館で予約をし、長い期間待った後にやっと読むことができた。
綺麗な装丁と可愛らしいサイズ感で、所有欲がくすぐられる素敵なビジュアルをしていた。読み始めるとすぐに文章に心が馴染む。ああ、吉本ばななの文章だなとすぐにわかる質感であった。
平易な表現なのに、なぜ読むだけで彼女の文章だとすぐにわかるのだろうか。毎回不思議である。文章と文章の間に横たわる息遣い、とでもいうのだろうか、力の抜けた間合いだったり、ふとしたときのぬくもりだったりで、彼女の存在を感じてしまうのだった。
短編集だが、主人公には大切な誰かを喪失したという共通項があり、全編を通して同じような空気感が漂っている。まさに表紙に描かれた色味のような。暖かくもあり、冷たくもある空気が通底している。
この小説が書けたことで、著者本人も大きな手応えと満足感が得られたようだ。たしかに短編集としての完成度も高く、彼女を代表する一冊といえるだろう。
後書きで、今作を書く前までの自分における最高到達点は『デッドエンドの思い出』だったと語っており、驚きとともに嬉しい気持ちになった。読んだのはだいぶ前で、内容はまったく覚えていないのだが、読んだ当時に私もそのように思った記憶があったからだ。感動に駆り立てられ、熱量を込めたレビューを当時のブログに書いたことを覚えている。
『キッチン』等、他にも有名な作品が数多くあるなか、著者本人としては『デッドエンドの思い出』と、本作『ミトンとふびん』がお気に入りなのか。そのことを知って、吉本ばななにシンパシーを感じるとともに、彼女のことがより好きになった気がした。
長いこと世界の第一線で活躍している作家である彼女。その世界観はすでに完成されてはいるものの、まだまだ歳と共に、本人の変化と共に、作品や文章も変わっていくのだろうなと、期待させられるのだった。
今作でふたつ目の山を築いた彼女の活躍に、今後も注目をし続けたい。三度となる頂きに登れた暁には、きっと本人の口からも語られることだろう。楽しみだ。