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文学パパが綴るかけがえのない日常

カズオ・イシグロを読む

三村尚央の『カズオ・イシグロを読む』を読了した。
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カズオ・イシグロ作品について書かれた文学案内本と言う意味では、私にとっては三冊目に当たる本書。今作はその中でも最も直近に書かれた本で、最新作の『クララとお日さま』についても取り扱われている。

 

本書は二部構成でつくられており、第一部は『作品編』。長篇作品にのみフォーカスが当てられており、ゆえに短編集『夜想曲集』は対象外となっているが、それ以外については最新作まで含め丁寧な解説が繰り広げられている。とても読み応えがあり、作品を読み返したくなる内容であった。

 

第二部は『モチーフ編』。こちらは作品を横断的にみたときに共通項となっている、イシグロにとって重要と考え得るテーマについて考察が展開される章だ。こちらは完全に私の好みではあるのだが、少し読んでいて退屈に感じてしまった。

 

おそらく文学評論としては興味深い内容なのだろうとは思うが、やはり物語として語られる分にはすんなり受け入れられる要素も、評論として言語化されると大切な何かが欠落してしまう感を強く受けた。

 

伝えたいテーマも、言葉としてそのままストレートに語ってしまうと人々の心にはなかなか届かない。ゆえに回りくどいけれども、物語として語る必要があるのだなと、改めて実感したのだった。

 

とはいえ、いくつかの気付きも得られたので、今度イシグロ作品を読むときには思い出しながら読んでみることにしよう。本書を読んで、作品を紹介する文章は好きだが、評論的な文章になると急に冷めてしまう、といった自分の好みを知ることができた。今後の読書においても自身の参考にしたいと思う。

 

さて、他者が書いたイシグロ論については、ひととおり読んで一定満足できたので、イシグロ本人の声や作品の方へとふたたび戻っていきたいと思う。間に他の作品も適宜挟みながらにはなると思うが、これを機にこれまでの作品たちをゆっくりと再読してみたい。