いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

クララとお日さま

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』を読了。

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イシグロ作品は文庫本ですべて集めているので文庫化されるのを待っていた。思っていたより早く文庫化してくれて大変嬉しい。

 

帰省のお供として、妻の実家に滞在中に読み終えた。とても静謐で心ときめく読書体験であった。やっぱり、好きな作家の新作を読むのはいつだって嬉しい瞬間である。

 

本作はAIが語り手となっている。彼女の視点を通すことで人間という生き物がフラットに浮かび上がり、よりリアルにその実態を感じることができる。

 

最後まで飽きずに読み通せ、読後には暖かい感情が心の中に渦巻く。そこには哀愁も感じられ、人によっては涙も誘われるかもしれない。

 

前情報として、過去作品の『わたしを離さないで』と『日の名残り』の系譜にある作品だと云われていることは把握していたが、確かにそれらの作品に似た要素を含んでいるなと納得できた。

 

また読後、様々な方が書かれたレビューも読み、今作をイシグロ作品の最初の一冊に推す声もいくつか見られた。確かに全編通して読みやすくテーマもわかりやすいので、初めての人にも勧めやすいかもしれない。

 

本作は映画化もされるとのことなので、配信が始まったら是非とも鑑賞してみたい。私の中で読みながら育んだイメージとの差分を確かめるのも楽しい作業であろう。

 

それにしてもやはりカズオ・イシグロは良い作家だ。年齢的にもまだまだ次回作も期待できると思うので、楽しみにしておきたい。

 

私の中でのベストはやはり最初に読んだ『日の名残り』であるが、今後それを超える作品が書かれることも期待している。本作もまた忘れた頃に読み返そう。