今村夏子の『むらさきのスカートの女』を読了。
芥川賞をとったときから読みたかったが、文庫本になるのを待っていた。忘れた頃に文庫化され、平積みされているのを見つけると嬉しくなるものだ。
今村作品を読むのはこれで二作目。それこそ芥川賞をとった際に待ちきれず、その当時文庫で読めた『こちらあみ子』を読んだ以来だ。デビュー作だったがほとばしる才能を感じたので、本作も期待して読んだ。
期待どおり、前評判どおりの読み応えであった。読みやすく、日常に溢れる物語なのに、どこか不穏な空気が漂い、それがページを捲るたびにどんどんと濃くなっていく。他にはない魅力である。
終盤の畳み掛けは圧巻だ。さらにはストンと暗幕が落ちたかのような終わり方も好みであった。読後はなんとも捉え難い余韻に包まれ、すぐにネット上に溢れる考察記事を読み漁ることとなった。
巻末に芥川賞受賞時に書かれた8本のエッセイが収録されているが、筆者のことを知ると、このような奇妙な物語が生まれるに至った経緯が、少し掴めたような気がした。
不遇、といったら失礼なのかもしれないが、明らかにパッとしない、謂わばイケテナイ青春期を過ごし、それでも慎ましくも健気に人生を歩んできた筆者だからこそ、書ける主人公であり、物語であると言える。
どんな形であれ、自分にしかない要素を、自分にしかできない手法で表現できる人には憧れを抱いてしまう。筆者の謙虚で正直な人柄にも好感を持った。
また風変わりな味が欲しくなったら、今村作品を手に取ってみよう。なかなかに寡作な作家のようだが、何を書いても独自の面白さを纏っているに違いない。