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文学パパが綴るかけがえのない日常

恥辱

J・K・クッツェーの『恥辱』を読了した。

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ノーベル賞作家だというが、著者の作品は初めて読む。史上初、ブッカー賞を二度受賞した作品というのに興味を惹かれたのと、信頼のハヤカワepi文庫だったので図書館で借りて読むことにした。

 

初老の男の転落劇を描いた作品。きっかけとなる事件は序盤早々から始まるのだが、主人公とそれを描く筆致がとにかく飄々としていて、なんだか不思議な感覚を覚える。しかし男の人生は確実に転落の一途を辿り、彼だけではなく家族ともども悲劇に包まれていくのであった。

 

哀愁溢れる物語というのは私が好きなところではあるが、いまひとつ物語の勢いには乗り切れなかった。その理由は、作中に登場する劇中劇やアフリカに対する私の知識と理解が足りていなかったからだろう。

 

一方で、文章はとにかく洗練されていて、心掴まれた描写は何度も読み返してしまったほどだ。さすがはノーベル賞作家、という思いを抱きながらに読んだ。

 

一作読んだだけではお気に入りにこそならなかったが、また気になる作品があれば読んでみたいと思う。私が敬愛するポール・オースターとの書簡集も出版されていたので、何作かクッツェーの作品を読んだ後に、そちらも読んでみようかなと思っている。