いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ジゴロとジゴレット

サマセット・モーム『ジゴロとジゴレット』読了。

f:id:pto6:20210421214237j:image

私の中で突如始まったモームブーム。この作品を読み終えても尚、その勢いは留まることを知らない。

 

今作は訳者による短編小説の傑作選。前評判通り、一篇の駄作もなく、どれも素晴らしい作品であった。退屈するまもないうちに一気に読了。モームは短編の名手とも言われる。その冠に偽り無しだ。

 

モームの文体は相変わらず私好みで、短編作品でも物語の面白さは冴え渡っていた。ただ二作目にしてモーム最大の美点は、その人物描写の巧みさにあるのではないかと思うに至った。

 

とにかく人物が生き生きと描かれている。微妙な所作や醸し出す雰囲気等を文章化するのが抜群に上手く、それによりありありと人物が想像できる。あの繊細なニュアンスは文章ではこのように表現すればよかったのか、と何度も気づきを与えられた。

 

特に女性を描くのがうまい。やはり良い作家ほど人間観察力が優れているのだろう。物語がどんなに面白くたって、出てくる人間が嘘っぽければ、とたんに味気ない小説になってしまうのだ。

 

ここにきてモーム作品への信頼は揺るがないものになった。もう一冊既に購入しているので、この勢いのまま読み始めよう。さりとて、訳者の金原瑞人さんとモームの相性は抜群だと思う。後書きを読むと本人もそのような自覚があるらしい。彼の翻訳で全作品を読破できたら。新潮文庫さんに期待しよう。