いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

レイモンド・カーヴァーの『象』を読了した。
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カーヴァー最期の短編集だ。作品を追う毎に短篇小説の書き方が私好みに変化していた作者だったので、彼の作品の“最終系”を確認するのを楽しみにして読んだ。

 

期待していたとおり、とても私好みの短編集であった。地味な物語ばかりなのだが、そこはかとない深みと哀愁が感じられる。登場する人物たちがまるで生きているかのようにリアルに描かれている。

 

訳者の村上が言うように、前作『大聖堂』が作品の完成度としては作者のピークであろう。しかし自身の死期を悟った上で書かれたと思われる本作には、他の作品にはない“凄み”のようなものがありありと感じられた。

 

物語の展開や語りも、これまでとは異なる試みが随所で取り入れられており、作家としてもう一段階進化しようという強い矜持が感じられた。その道半ばで最期を迎えてしまわれたことが、本当に残念でならない。

 

小粒だがどれも味わい深い作品ばかりで、纏まりの良い短編集であった。『カーヴァー最期の短編集』という立て付けも相まって、今後も繰り返し手に取るだろう。