著者拘りのレトロ仕様で、定価3000円もする本書。現在はプレミア価格になっているようだが、図書館で借りて読んだ。なんだか得した気持ち。
さて、内容の方はいつもながらに面白かった。20代前半のバイト話と、同棲相手の秋恵がでてくる話。どちらも読み応え十分だが、後者の方は、ふたりの関係が悪化している終盤の頃ということもあり、読んでいて心苦しくなった。
そして読んでいてふと気づいたことといえば、作者の文章力が上がったことである。同じような話を書いているからこそ、その書き方と構成する文章の進化をわかりやすく実感することができた。
独自の味わいにさらにエッジを立て、そのうえで読みやすい、快いリズムを携えた文章になってきている。そりゃこんなふうに何作も書いていたら、うまくなるのも当たり前なのかもしれないが、より卓越してきた文章を目に、やはり亡き作者のことを憂いてしまう。
ちなみに、図書館側は親切なことに、単行本の特典である小雑誌も、巻末に付けてくれていた。作者によるあとがきと、イベントで書いたというショート作品が掲載されており、そちらも楽しく読んだ。
さて、いよいよ最新刊に近づいてきた。文章がさらに冴え渡っていく様も期待して引き続き読み進めよう。