いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

いない世界

「◯◯くんとパパ、どっちとケッコンしよう」

 

就寝前、娘がベッドの上でそのようなことを口にした。大きくなった弟とパパ、将来どっちと結婚しようかと、最近悩んでいるらしい。

 

「こうたいごうたいでケッコンすればいいか」

 

そんなことまで言い出すあたり、娘はまだ結婚というものをあまり良く理解できていないらしい。それでも結婚は大好きな男の人とするもの、ということだけはわかっているらしく、その候補に私と弟がでてくるのはとても嬉しいのであった。

 

「…でも、わたしがおばあちゃんになったら、パパとママはいないんだって…」

 

将来に想いを馳せたことで、娘はなにかを思い出したのか、いきなりそんなことを呟いた。きっといつかの会話で妻からそのようなことを教わったのであろう。紛れもない事実だ。娘がおばあちゃんになる頃には、私と妻はおそらくもうこの世にはいない。

 

私が何か声を掛けようとしていると、娘は自分で呟いた言葉を噛み締めたのか、しくしくと泣き出してしまった。そうなった状況を想像してしまったのであろう。私は涙まで流すとは思っていなかったので慌てて娘を抱きしめた。

 

「こわい…」

 

寂しいでも悲しいでもなく、怖いというのがとてもリアルに感じた。パパとママがいない世界というのは、怖くてしょうがないというのが本音であろう。

 

娘は静かに泣き続けた。本気泣きのときほど静かに泣くのが娘の特徴だ。喘ぐ声が漏れるたび、彼女の切実さを感じた。彼女が大きくなるまで、私達のいない世界を受け入れられるくらいになるまでは、長生きをしなければならない。改めてそう思った。