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文学パパが綴るかけがえのない日常

二都物語

ディケンズの『二都物語』を読了した。
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私にとってディケンズ三作目である。今作も彼の代表作で、全世界で二億冊売れているらしい。

 

結論からいえば、今作も『大いなる遺産』と同じレベルでとても面白かった。前回読んだ『オリヴァー・ツイスト』が私的にはいまいちだったので少し心配していたが、杞憂に終わった。

 

ディケンズは作風において前期と後期があるようだが、私はどうやら後期の作風の方が好みに合うみたいだ。前期ではユーモア織り交ぜた描写が著者の売りとなっているが、後期では物語全体を通して社会風刺の色合いが強くなる。

 

今作ではフランス革命を題材に、劇的な人間ドラマが描かれていく。人物描写がとにかく素晴らしく、伏線を回収するミステリ仕立てのプロットも秀逸で、スリリングな後半の展開には思わず息をのまされた。

 

感銘を受けたのは、展開に合わせて適宜語り口が変えられる点だ。ときに比喩表現の畳みかけだけで時代のうねりを表現したり、ナレーションと映像描写のみで激動の展開を演出してみたりと、文章表現におけるテクニックも巧みで読者を飽きさせない。乗りにのって筆が動いたかのような饒舌体が読んでいてとても心地よい。

 

前評判で、この作品への評価に賛否があることを知っていたのだが、実際に読んでみると否の対象となる要素が思い浮かばない。私からみれば文句なしに素晴らしい古典の名作だと思う。

 

映画『ダークナイトライジング』でもこの『二都物語』をベースにシナリオが作られたらしい。言われてみれば、市民が反乱を起こし、権力者側が窮地に立たされるという構図は、確かに本作との類似点が見て取れる。

 

本作を読んで、ディケンズの他作品もさらに読んでみたくなった。ただ加賀山卓朗氏による新訳シリーズが近年続けて発売されているので、他の作品も出てくるのではと期待している。しばらくは旧訳には手をつけず、待っていようと思う。

 

また面白いもので、英文学を続けざまに読んでいると、反動からか米文学が無性に読みたくなってくるのであった。そんなわけで次は久しぶりにヘミングウェイの未読作品を読もうと思う。