三島由紀夫の『仮面の告白』を読了した。
三島小説の中でも評価の高い作品のひとつだ。私がこれまでに読んだ『潮騒』『金閣寺』とも並ぶ、三島の代表作であろう。ちなみに私はエッセイも2冊読んでいる。
「擬古的な耽美調が目につきすぎる嫌いがある」とは巻末の解説にあった表現だが、まさにそれが三島の書く文章の特徴であり、魅力のひとつでもあるだろう。
ただ今回私はこの本を読むのと並行して、平易な言葉と端的な文体で翻訳された小説を読んでいたので、すぐにはギアを切り替えられずに、前半部分はいささかその文体に馴染むのに苦労してしまった。
また作風という面でも、ダイナミックな展開を有すアメリカ文学などと交互に読んだことで、内省描写に重きを置いている本作の展開に、少しばかり物足りなさやスケールの小ささを感じてしまったのも事実である。
これは近代日本文学の全般に言えることなのかもしれないが、ジメジメしてどこか女々しさを漂わせているその作風は、読み手のテンションが絶妙にマッチしている時にこそ、読むべきものなのかもしれない。
と、私的にはあまり相応しくないタイミングで読んだ本作だったが、やはりその美しい文章には至る処で心を掴まれた。三島が文章で拘る“気品”が、どの頁を開きどの文章を取り上げても、しっかりと纏われているからだ。
また感情を深掘りし的確に表現する見事な内省描写は、海外文学でもなかなか味わえない魅力を具えている。
次に本作を読むのは、うじうじ悩んでいる時にしよう。当然、そんな日が来ないに越したことはないのだけど。