いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

じっと手を見る

窪美澄の『じっと手を見る』を読了した。
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久しぶりに大衆向けと呼べる小説を読んだ気がする。彼女の作品は読みやすいながらも、しっとりと胸に訴えかけてくるものがあるから好きだ。

 

今作は直木賞の候補にもなったので、期待して読んだ。作者の魅力が存分に現れていて面白かった。前に読んだ彼女の作品が、彼女らしさを抑えた作風だったため、今作を読んで「そうそう、これこれ!」と嬉しくなった。

 

主人公たちは介護に従事する者たちだ。全編を通してその仕事内容にも触れられていくのだが、その過酷さには顔をしかめるばかりであった。自分がその仕事をこなせる自信は、読んでいて微塵もわいてこなかった。

 

そのような社会を支える人達に焦点を当て、『恋愛』や『性』という、謂わば読者を飽きさせない要素も加えながら、物語を最後までぐいぐいと牽引していく力は流石である。読み始めて僅か2日で読み終えてしまった。

 

軽やかな文章だが、少し湿り気があって、身体を通過した後にもじんわりと跡が残るような文章だ。この文体が合うという人であれば、この作者のどの作品を読んでも楽しめるのではないかと思う。

 

本格的な文学作品を読む合間の息抜きとしては、とても丁度良い作品であった。今後もこの作者の本が文庫化されるたびに、引き続き手に取ってみようと思っている。