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ロング・グッドバイ

レイモンド・チャンドラー著『ロング・グッドバイ』を再読した。これで3度目の読み返しとなる。
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言わずとしれた名作だ。この前に別のチャンドラー作品を読んだことで、また読み返したくなったので手にとった。私立探偵フィリップ・マーロウものの第6作だ。

 

この作品をチャンドラー作品の一番手に挙げる人も少なくない。翻訳した村上春樹もそのひとりで、チャンドラー作品の中でも傑出していると語っており、すべての小説の中でも生涯ベスト3のひとつに挙げられている。

 

改めて読み返すと、そのように評価の高い理由がわかる。チャンドラー最大の魅力である洒脱な文章にも脂がのりきり、熟成を極めているのだが、本作に関して言えば特筆すべきはその物語の構成だと思う。

 

複雑なプロットが用いられるのは他の作品とも同様だが、幾重にも話が重なりあっていて、展開にもドラマチックな要素がふんだんに盛り込まれている。物語の重厚感と完成度が、他の作品と比べても段違いなのだ。

 

読み始めに想像したものとは全く異なる展開を見せていく。導入から主人公が大きな事件に巻き込まれるのだが、途中、別の依頼が舞い込み、最初の事件が棚上げされる。しかし終盤、それらの事件は見事に繋がり、背後に隠されていた深い真相が明らかになるのだ。

 

ただ物語が長く、ストーリーが多重構成になっているため、読み手にはある程度の集中力が求められる。うかうか気を抜いていると、今主人公がなんの事件を追っているのかが、わからなくなってしまうかもしれない。

 

そういう意味では、他のチャンドラー作品よりも、気合いを入れて読む必要があるだろう。それもあり、私も本作を傑作だと認めてはいるものの、気軽に何度も読み返したい対象とは考えていない。いつも満を持して読んでいる。故に一番好きなチャンドラー作品も別の作品だ。

 

本作は事件解決後にも、どんでん返しが起きて驚きの結末を迎えるのも魅力的だ。最後の最後まで予想を裏切り、読者のことを楽しませてくれる。主人公のセリフもいつも通り冴え渡っており、読んでいるとこちらまでタフでクールな男になれたような気持ちになってくる。


本作を久しぶりに読み返して高い満足感を得た。また気持ちが昂ぶったときにでも再読しようと思う。読むたびに新鮮な驚きをくれる作品だと、再確認できた。