いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

遠い太鼓

村上春樹の『遠い太鼓』を読了した。
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彼が30代後半において約3年間ヨーロッパに住んだときの記録である。エッセイであり旅行記だ。私は他の小説と並行しながらこの本をちびちびと読み進めていった。

 

村上は他にも多くの旅行記を書いているが、中でもこの本の評判はすこぶる良い。それゆえに、とてもわくわくしながら読んでみたのだが、期待値が高すぎたのか、そこまでの感動は味わえなかった。それでも、彼の文章はやはり読んでいて楽しい。

 

日記に近いような力の抜き具合で書かれているので、読む側としても気楽に読むことができた。村上はこの本を書いているヨーロッパ滞在中に『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』という長篇2作を書いている(あとは短篇と翻訳も数作)。彼自身も息抜きとして、この本の文章を書いていたのではないだろうか。

 

彼の旅行記は、変にその国を美化せずに、悪いところは悪いと素直に書かれているので面白い。特にイタリアのことなどはボロクソに書かれていて、ローマになんて一生行きたくないという気持ちを抱かされた。

 

もともと私は海外旅行がそこまで好きではないし、日本語が通じるこの国に居心地の良さを感じている。だからこそ、この本を読んでなおさら日本という国のありがたみを実感できた。治安がよく、規律があり、礼儀がある。そのような我々が当たり前だと感じていることが、世界から見ればとても珍しいことなのだと思う。

 

巻末に村上は、「この本を読んで、長い旅に出てみたいと思う人がいれば筆者にとっては大きな喜びだ」と書いていた。残念ながら私はそれと真逆のことを考えてしまったわけなのだが、たしかに人によってはそういう気持ちになるのかもしれない。

 

異国の地で暮らしてみるというのは、なかなかスリリングで刺激的なことだろう。そのことは、この本を読んだだけでも感じることができた。でも日本に居たいなぁ。