いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

病める時も、健やかなる時も

私はいい妻をもったな、と改めて思った。

 

昨日、在宅勤務をしていた昼食の際にである。最近職場で私の表情が暗いからと課長が面談してくれることになった。そのことを妻に告げたときだ。在宅中もため息ばかりだったので妻も気づいていただろう。なにより私はツライツライとすぐに口に出すタイプなので、そのような状況にあることは前々から認識してくれている。

 

その会話をきっかけに、今の状況がどんな風にツラいのか、という話を詳しく妻に聞いてもらう流れになった。ひとことでいえば『私の実力不足』なのであるが、話をしていくうちに、私の中でも状況がどんどんと整理されていった。

 

今の職場は出世が半分約束されているほどのエース部署ではあるが、そのぶん超激務である。

 

職場にいる主要なメンバは意欲と実力にあふれ、プライベートを犠牲にしてでも貪欲に仕事と向き合い、こなしている。私が抱えている根本の問題は、①その激務を華麗に捌けるほどの実力もないし、②かつプライベートを犠牲にするまでの意欲もない、ということにあるのだ。

 

新しい職場に着任したばかりの頃はいくらかもっていた出世欲も、現在ではほぼゼロになった。というより、実力とメンタル面での身の程を知ったことで、こんな自分が管理者を目指したらいけない、会社のためにも、自分の健康のためにも、と考えるようになったのだ。もちろん今の部署以外の管理者ならこなせる可能性もあるわけだが、どちらにせよ、中途半端な出世であるならば割に合わない、という考えである。

 

ただ思えば、私は前々から妻に対してこう宣言していた。「プライベートを犠牲にしない範囲で出世できるところまで行くから」と。つまり今回のことはどういうことかと整理すると、「そのタイミングが思ったよりも早く来てしまった」ということに尽きるのである。

 

今の部署にきてしまったが為に、想定よりも早く自分の限界に気づかされた。予想ではもう少し上までいけるかなと思っていたのだけれど、完全に自分の実力を過信していたわけだ。

 

その結論を妻との会話から導くと、ふたりして小さく笑った。なんだ、だとしたらタイミングは幾らか早かったけれど、当初の方針通りではないか。そう妻は明るく言い放った。

 

そうとわかれば、無理して出世を目指す必要もないし、今の仕事から逃げてもいいと思うよ。妻はそんなことを明るく言ってくれた。それにより、私の心はものすごく軽くなった。

 

もちろん課長との面談においては、まだすべてをぶっちゃけるつもりもないし、職場のメンバに迷惑かけるような形で仕事を投げ出すつもりもない。でも最終手段として「いつでも逃げだしていい」、そうパートナーに言ってもらえたことで、私の心に余裕が生まれたのであった。

 

「人生、仕事だけじゃないんだから。生きていく為の手段でしょ、あくまで貴方にとっては」

 

妻は終始明るく笑っていた。私は涙がでてきそうなくらい嬉しくなり、妻に感謝を告げた。

 

夜中、ベッドの中で改めてそのときのことを考えていると、妻が娘越しにそっと手を伸ばし、私の手を握ってくれた。妻の手はとても暖かかった。私は心を込めて、その手を握り返した。