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文学パパが綴るかけがえのない日常

カズオイシグロ読み返し①

少し前からカズオイシグロ作品の読み返しを始めた。

 

彼の作品はすべて読了しているが、読む順番がばらばらだったため、改めて第一作から順を追って読み返したくなったのだ。きっかけは彼の作品のガイド本を読んだことだった。各作品の解説を読んでいると、実物の作品を読み返したい衝動に駆られたし、また作品毎のイシグロの変化・進化についても感じ取りたいと強く思ったからである。

 

ここまででまずは最初の三作まで読んだ。切りがよいのでそのことについて感想をまとめておきたいと思う。この初期の三作は、一部では三部作とまで呼ばれており、主人公の境遇や舞台こそ違えど、同様のテーマについて書かれた作品群である。

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第一作の『遠い山なみの光』を読んでいる時から多幸感に包まれた。やはりイシグロの作品は面白い。しかもストーリーを把握した上で読む彼の作品は、初見の時よりも更に輝きを増しているように思うのである。

 

もしかすると優れた純文学の条件というのは、繰り返し読んでもそのたび魅力を味わえることなのではないかと読みながら考えていた。その真偽はどうであれ、少なくともイシグロ作品は何度読み返してもその楽しさが衰えることがない、むしろ増す兆候にあるというのが今回読み返してみて強く感じたことであった。

 

二作目の『浮世の画家』を読んでいるあたりで、イシグロ作品についての私の中でのランキングが定まらない事態になった。これまで私の中での不動の一位は三作目の『日の名残り』だったのだが、読み返してみると一作目、二作目も抜群に面白く、それぞれの優劣がつけられなくなったのだ。

 

それでも三作目の『日の名残り』を読み返すと、改めてその作品としての強度に圧倒させられた。最近、映画の方のBlu-rayも購入し観たばかりだったので、映像がさらに眼前に浮かび、その物語の深さに胸打たれ、甘美なため息をもらしっぱなしであった。

 

私が作家であれば、これほどまでに完璧な三作を初期に書いてしまったら、すっかり満足して筆を置いてしまいそうである。しかしながらイシグロはここから様々な作風へと挑戦していくことになるのだ。作品を発表順に読み返すならではの楽しみが味わえるのは、ここからが本領発揮なのである。

 

さて、ここからも引き続きイシグロ作品を最新作まで順に読み返していこうと思う。また切りのよいタイミングで、このような感想をまとめることにしよう。