いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

きいろいゾウ

西加奈子の『きいろいゾウ』を読了した。
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この作者。すこぶる評判がいいので前々から気にはなっていたが、初めて作品を読んだ。一番の代表作『サラバ!』から読もうともしたのだが、かなりの長編なので、万が一にも文体が合わなかったら読み切るのがしんどいかとも思い、最初の作品としてはこれを選んだ。

 

宮崎あおい向井理で映画化されたことでも知っていた本作。ほのぼのとした夫婦ものということで、楽しみにして読み始めた。

 

ゆったりと物語は進んでいく。感性豊かな妻のツマと、それを優しく見守る夫のムコ。平凡で幸せな田舎暮らしがたっぷりと描かれた後に、小さな事件が起き、それが収束するまでが描かれる。

 

読んでいて、なるほど、これは人気作家になるのもわかるな、という感想を得た。優しくて小気味よい絶妙なる語り口。読みやすいのに独特のリズムもあり、はまるとクセになってくる。物語は暖かく前向きなメッセージが受け取れ、気持ちよい読後感も得られた。

 

軽いタッチで描かれているのでとっつきやすく、それゆえに幅広い層から支持されているのだろう。それでいて端々の描写は個性豊かで、読んでいて楽しい。作者の感性そのままに書かれた、エネルギッシュな勢いのようなものも感じられる。

 

多くの作品を出しているみたいなので、またいつか別の本も読んでみたいなと思った。今回の作品は初期のものらしいので、次に読むなら最近のものを読んでみたい。その後文体がどのように成熟したのかを、確かめてみたい気持ちになったのだ。

 

ちなみに今回は小説を読むのと並行して、同作品の映画も少しずつ鑑賞していった。(Amazonプライムビデオにあったので)小説で思い描いていた通りに映像化されており、なかなかに感心した。原作へのリスペクトがひしひしと感じられる映像化だ。

 

ただ小説にしろ、映画にしろ、読む人観る人によっては退屈してしまう内容かもしれない。

 

いかんせん、基本的には平凡で幸せな夫婦生活が淡々と描かれていくからだ。ただそのぶん、そういうのが好きな人にとっては、たまらない作品だろう。

 

なんにせよ、私としてはとても楽しめた。特に後半はページをめくる手が勢いづき、最後まで一気に駆け抜けた。年越しを跨いで読んでいた本だが、2019年の良い“読み初め”ができたのではないかな。