いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

すみなれたからだで

窪美澄の『すみなれたからだで』を読了した。
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文庫本の新刊がでると、つい買ってしまう作家だ。デビュー作を読んで以来、彼女の描くテーマと文体に惹かれている。今作も彼女らしさがでていて良い作品だった。そして相変わらず、タイトルのつけかたが秀逸である。

 

今作は9つの短篇からなる短編集だ。どれもショートショートと言えるほどに短い話だが、読み始めからすっと世界に入り込め、少なからざる余韻を残してくれる。

 

作品たちに通底するテーマは「性と生」。これまでの作品たちでも扱われてきた窪の得意とするテーマだ。

 

彼女は何か人生に絶望感をもっている人、苦労しながら生きている人間を描くのが本当にうまい。読んでいると、自分とはかけ離れている境遇の人物にさえ自然と感情移入させられ、ときに胸が締め付けられるような強い感情を抱かされる。

 

改めて実力のある作者だなあと思う。気がつけば彼女の作品はこれまで数多く読んできた。私は女性作家は比較的あまり読んでこなかったのだが、彼女とよしもとばななの作品だけは、肌に合うような感覚を持っている。

 

彼女らに共通する魅力は、女性ならではの瑞々しい感性を十二分に発揮しながらも、中性的、客観的な目線を忘れずに具えているところだと思う。だからこそ男性の私が読んでも新鮮な発見があり、それでいて突き放されるような疎外感は感じずにすむのだ。

 

窪作品が続けて読みたくなったので、未読だった別の文庫本をすぐさま注文した。そちらも読むのが楽しみだ。