いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

クラウドクラスターを愛する方法

窪美澄の『クラウドクラスターを愛する方法』を読了。
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窪の3作目にあたる本作だが、地味であまり知られていない作品だ。未読の窪作品が読みたくて検索してみたところ、見かけない表紙がでてきたので今回読んでみた。

 

内容としても比較的地味な短篇が2篇収録されている。しかしとても味わい深い作品であった。派手な設定や展開はないが、そのぶんしっかりと人間が描かれている。

 

ふたつの物語に共通するテーマは「家族」だ。どちらにも少しだけ不幸な家族の姿が描かれている。しかし絶望するほど最悪なわけではない。ただしくしくと日々の辛さが積み重なることで、主人公達の視界は淀んでいる。

 

描かれる人々はどこにでもいそうなほどにリアルだ。彼らの生活も私の住む日常の地続きに感じられる。このように、特別でない人たちの物語をしっかり最後まで読ませられるところに、この作者の実力を感じられる。

 

窪作品を読むと、いつも不思議な気持ちにさせられる。自分は彼らのように日々の生活に不幸も感じておらず、別に共感するようなことはないはずなのに、なぜだか胸がしめつけられる気持ちになるのだ。

 

上の立場から不幸な彼らをみて安心しているのか。そうではない気がする。きっと小さなボタンの掛け違いで、いつ自分も彼らの立場に追いやられる可能性があるということを、直感的に理解しているからだろう。だからこそ、どの物語も我がごととして読むことができるのだ。

 

小説としても、普通の人の普通の生活を切り取って、普遍的なテーマを効果的に語っている物語が私は好きだ。劇的で無くてもそこにはドラマがあり、劇的で無いからこそ、まっすぐに私たちの胸に突き刺さってくる。

 

また忘れた頃に彼女の本が文庫化されるだろう。そしたらまた、静かな場所でひとり彼女の本と向き合いたい。