いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

いってらっしゃい

娘はいつからか「いってらっしゃい」を覚えた。

 

毎朝ではないが、娘が私の出社前に起きてきたときには、妻と一緒にお見送りをしてくれる。

 

玄関まで来て笑顔で手を振り、「いってらっしゃい」と言ってくれるのだ。言ってもらえた日にはとても気持ちよく家を出ることができる。

 

しかしどうやら、娘は私が家を出るとわかるから「いってらっしゃい」と言っているわけではないらしい。昨日そのことに気がついた。

 

昨日は午前中、妻が病院を予約していた為、午前休をとって家で娘と過ごしていた。昼前に妻が帰ってきたので、私はスーツに着替え始めた。着替えて、昼ご飯を食べて、会社に向かうつもりだったのだ。

 

すると、スーツ姿の私を見た娘は、私に向かって「いってらっしゃい」と言ってきた。

 

「いや、もう少しいるよ。一緒に昼ご飯まで食べるよ」そう私は言ったのだが、娘は笑顔で何度も「いってらっしゃい」と言ってくる。

 

また、通勤用のリュックに水筒を入れているところを見ても、娘は「いってらっしゃい」と私に言ってきた。

 

どうやら、娘は私のスーツ姿とリュックを見たら「いってらっしゃい」と言う、という覚え方をしているらしい。いわば犬を見て「わんわん」と指差すのと同じようなものだ。

 

その後、そんな娘をなんとかイスに座らせ昼食を食べた。そして本当に家から出る場面となった。

 

玄関に向かう私を軽快に追いかけてきた娘は、手を振り「いってらっしゃい」を連呼してくれる。

 

「行かないで」と泣くわけでもなく、「さぁ行っておいで」と気持ちよく男を会社に送り出す娘。

 

なんだか、将来いい女房になりそうだな、そんなことを思ってしまった。

 

靴を履き終わり振り返ると、妻に抱っこされた娘は、改めて「いってらしゃい」と笑顔で私に言ってくれた。

 

私は妻と娘をぎゅっと抱きしめ、「いってきます」と応えた。力が漲る思いがしたのは、言うまでも無い。

 

そんなお見送りがあった日は、いつも以上に「頑張ろう」と思える。

 

そして、今別れたばかりなのに、早く帰って家族に会いたいな、とも思ってしまうのだった。