いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

出窓、陥落

その瞬間は突然に訪れた。

 

ベッド脇にある出窓の前に立った娘が、3重にロックされていたはずのスライド式の窓を開けてみせたのだ。暖かい寝室の中に、冷たい外気が吹きすさぶ。

 

そんなわけがない。私は心中穏やかではないものの、冷静さを取り繕うとした。娘を出窓から降ろし、窓を閉め、娘に見えないような形で3つの鍵をかけ直した。

 

私が窓から離れると、再び娘が出窓によじ登る。そこには窓でよく見かけるタイプの鍵がかかっている。レバーを下げることで2枚のガラス窓の連結が解かれるが、そのレバー自体にもロックが付いているものだ。

 

しかし、娘はなんなくそのロックを解除し、レバーを下げ2重の鍵を突破してみせる。残るは、窓の下部にある押し込み飛び出させるタイプのストッパーだ。

 

けれども、そのストッパーも指で押し込み、なんなく打開される。これで窓をスライドさせる上で、妨げるものは何一つなくなった。娘は嬉々とした表情で窓を開く。再び冷たい外気が、渦を巻くように入り込んできた。

 

出窓、陥落。その事実が私に突きつけられた。

 

ついに娘が外界との扉を、自らの手で開けられるようになってしまったのだ。その窓の外側には開閉式の格子がついているので、身体を出すことはできない。しかし、外に向かって物を投げることくらいは容易だろう。

 

出窓陥落の知らせを、神妙な顔で妻に告げた。すると押し黙り、しばしその深刻さを咀嚼するような表情を浮かべる。そして、出窓の前に立つことを許していた私を叱責した。返す言葉もないだろう。

 

しかし、タイプの異なる3重のロックを、2歳の娘がやすやすと突破できるなんて、想像すらしなかった。子供とは、こんなにも賢きものなのか。

 

このタイプのロックは、ベランダへと通ずるガラス戸でも利用されている。まだそこには娘の身長が足らず、鍵に手はかけられないのだが、届きさえすれば開けられるという道理になる。

 

ベランダに出られたら、落下など様々な危険が伴う。突破された日には、この城が落ちたも同意であろう。

 

娘の聡さに若干の嬉しさを感じつつも、城主としてはそれを喜んでばかりもいられない。彼女の身を危険から守るため、改めて城の守りを固め直すことが急務だ。