いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

早朝の脱出ゲーム

枕の下に忍ばせたスマホのアラームが鳴った。

 

私はワンコールのうちにそれを切る。寝ぼけまなこで辺りを見渡すと、妻も娘も変わらずに寝息を立てているようだ。よしよし、まずは第一関門を突破。

 

娘は夜中のうちに寝転がったようで、私の足の位置で横になっていた。なかなか難易度の高い位置をとられてしまっている。僅かに私の足にも身体が触れており、動きかた次第では娘を起こしてしまうリスクもありそうだ。

 

毎朝、私は妻や娘より早く起きている。会社に出かける1時間ほど前にひとり寝室から抜けだし、リビングで小説を読んだり、ここに載せる文章を書いたりしている。

 

しかしここ最近、娘に気づかれずに寝室を抜け出すというミッションが、とても難しいものになってきた。

 

その要因のひとつは、ベッドで横になる並び順が変わったことにある。以前までは私が扉にもっとも近い位置で寝ていたのだが、少し前からは娘の要望によって、扉から一番遠い位置で寝るようになった。

 

もうひとつの要因は、娘が物音に敏感になったことだ。そのときの眠りの深さにもよるのだろうが、僅かな物音でも顔を上げ、抜け出そうとしている私を発見する、ということが多くなった。

 

そして寝ぼけた娘が私を見つけてしまうと、ベッドに戻るよう言われるか、自分も起きると言い張らせてしまうのだった。ほんとうはまだ眠たいくせに、一緒にリビングへといき、ソファのまわりでゴロゴロとしはじめる。

 

そんなわけで、今朝も私はベッドからひっそりと起き上がり、寝室から脱出するというミッションに挑んでいた。足下の娘と触れ合っている部分をゆっくりと引き剥がし、私は静寂の中でむくりと起き上がった。

 

できるだけベッドを軋ませないよう上手く身体を移動させながら、ベッドの下側から床に足をつける。そしてベッドの下を伝い、寝ている娘と妻を横目に、部屋の隅に置かれた本棚へと近づいていく。リビングへと持って行きたい小説とポメラを手にするためだ。

 

今日はうまくいきそうだ。そう思い本を手にした矢先だった。寝室の床が音をたてて軋み、娘がもそもそと動く音がした。私はおそるおそる振り返る。娘が顔を起こし、半分寝ぼけながらにこちらの方を見つめていた。

 

「ぱぱ・・・おきよ」ゲームオーバーだ。

 

そんなわけで、今この文章を書く傍らには娘がいる。とても眠そうにソファの上でゴロゴロとしている。それならベッドの方がさぞかし気持ち良いだろうに。でも、せっかくだからこの癒やしの時間を堪能させてもらおう。