いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ティンブクトゥ

ポール・オースター『ティンブクトゥ』を再読した。
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発売間近の新刊を待つ間、その埋め合わせとして読み返した。オースター作品の中ではあまりぱっとしない作品なので、きっとこんなタイミングでもない限りはなかなか読み返さないと思ったからだ。

 

この小説をひとことで言うと『犬が主人公の物語』ということになるだろう。しかし、巻末の訳者解説でも書かれているとおり、本作ではそのことを、必要以上に際立たせて書かれていない。

 

たまたま、語り部が犬であるだけで、あくまで主題は風変わりな飼い主との間にある“絆”についてだ。例え、それが人間同士であっても話としては成立する。

 

そのため犬視点であることを、これ見よがしに書かれていない。過度にネタにすることもない。単なる身体的特徴として“犬”であるだけ、そんな扱い方なのだ。そういうところに、本作はとても好感がもてる。

 

ストーリーは、死期が近かった飼い主との旅の途中、ついに最期の時を迎え孤独の身となった老い犬が、その後の放浪の中でいくつかの人たちと出会い別れ、自身もクライマックスを迎える、といったものだ。

 

主人公の中には、最期の最期まで元飼い主への忠誠心が残っている。そこで描かれる二人の絆に、読者は暖かい感情を抱かされるのだ。

 

語り口は相変わらずリズミカルで、適宜差し込まれる挿入話も読み応えがある。平凡な作品とは言われているものの、そこは流石のポール・オースター。決してつまらない小説にはなっていない。

 

少し失礼な言い方かもしれないが、贅沢な時間つぶしをさせてもらった。本の薄さもちょうどよく、間を埋めるのには最適な本であった。


さて、今日は待ちに待ったとある新刊の発売日だ。更には昨日、別の本がこの春発売される情報も仕入れた。

 

次から次に読みたい本が発売され、読むのが全く追いつかない。読書好きとしては、なんとも嬉しい悲鳴だ。