いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

鍵のかかった部屋

ポール・オースター鍵のかかった部屋』を再読した。
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発売日が迫った新刊があったので、それまでの数日間で読み切れる長さの小説を、と本棚を探していたときに目に止まり、読み返すことに決めた。

 

この本を選んだのは、これまでに数回は読み返したはずなのに、ぱっとストーリーが思い出せなかったからだ。なんとなくラストのシーンは思い出せるものの、そこに至るまでの流れが全くもって浮かばなかった。

 

読み始め、少しだけその世界に入るのに時間を要したものの、入りこむと夢中になってページをめくった。やっぱりオースターの小説は面白い。それがこのような初期の作品であってもだ。

 

この作品は、彼を一躍有名にした作品群『ニューヨーク三部作』の最後の作品にあたる。これらは物語の舞台がニューヨークというだけで、別に繋がった話ではないのだが、そこに漂う空気感とストーリー展開には多くの共通点がある。(この本では、前二つの作品名も登場)

 

私はこの『ニューヨーク三部作』でポール・オースターを知った。そして、その作品を私に教えてくれたのは、ニュージーランドの宿でたまたま出会った旅人だった。

 

私は大学時代、仲の良い先輩と二人で2週間、バックパッカーとしてニュージーランドに行った。旅行の行程は決めず、ユースホステルで相部屋となる様々な国々の旅人とふれあいながら、自由気ままな旅をした。

 

その終盤、マウントクックの麓にあるコテージに数泊したのだが、そこで出会った日本人の放浪者(脱サラしたアラフォーの男性)に、この小説のことを教えてもらった。そして日本に帰ったあと、実際にそれを買って読んだのが、私とオースター作品との出会いである。

 

さて、少し脱線したので本の話に戻ろう。この本は、読み返すたびに不思議な小説だなと思ってしまう。

 

突然失踪した旧友を探す物語。探偵小説の枠組みを使いながらも、物語は解決とは異なる方向へ、予想を裏切りながらに進んでいくのだ。

 

読んでいて、よくもこんな風変わりで入り組んだ小説が、世界中の幅広い読者に支持されたものだ、と思ってしまう。しかし、それでもどんどん読み進めたくなるのだから、ストーリーがとにかく面白いのだろう。

 

こんなふうに、自分の思想や嗜好をふんだんに取り入れながら、人々を惹きつけて止まない物語が書けたなら、さぞ面白いんだろうなと思う。

 

ポール・オースター作品を読むと、毎回自分も小説を書いてみたいという衝動に駆られるのだった。もちろん、私には小説を書く才能が備わっていないので、語るべき物語は一向に湧き出てこないのだけど。

 

久しぶりにこの世界観に浸れて良い気持ちだった。また折を見て、他の作品も読み返したいなと思う。