いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

オラクル・ナイト

ポール・オースター著『オラクル・ナイト』を再読。
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おそらく読むのはこれで3回目だ。中盤まではところどころの場面を覚えていたが、結末は一切記憶に残っておらず、最後は息を呑むように展開を見守っていた。

 

この作品には、物語内物語がこれでもかと盛り込まれている。作家の主人公を巡る物語なのだが、その主人公が書く小説や、その小説の主人公が読む小説の内容などが登場し、気を抜くとどれが現実(とはいえそれも小説内なわけなのだが)なのかがわからなくなってくる。

 

さらにはそこに細々とした物語(新聞記事や映画のシナリオ、友人から譲り受けるプロット等)も登場し、ところどころで挟まれる主人公による長々しい注釈も相まって、それぞれの物語が徐々に境目なく溶け合っていく。

 

もちろん、それは作者が意図した効果だ。複雑なので読むのにはカロリーを使うが、だからといって決して読みにくいわけではない。このような多重的構造をとる物語という意味では、とても読みやすい部類の作品だろう。

 

それでもオースター作品の中で言えば、読み心地という点では少し見劣りするかもしれない。結末も悲劇的なため、読後感もあまり良いとは言えないだろう。作品としての完成度という意味ではとても高いと思うのだけど。

 

とはいえ、最後まで夢中に読め、面白い作品であることには違いない。おそらく私はまた再びこの書を手に取り読み返すことだろう。幾重の読み返しに堪え得ること。それが良質の文学作品たちが具えている美点なのだ。