いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

月は怒らない

垣根涼介の『月は怒らない』を読了した。

f:id:pto6:20201021072311j:image

彼の書く歴史小説が大変面白いが読み尽くしてしまったので、それ以外のジャンルで未読の作品を読むことにした。有名作は学生時代に読破していたので、数少ない残りの候補から選択。

 

相変わらず読みやすい軽快な筆致。ただ読み終えた感想としては些かな物足りなさを感じた。

 

きっと彼の歴史小説を読んだ後だったからだろう。歴史モノという重厚さを纏った物語を軽やかなタッチで描くことで、それらの作品は絶妙なバランスを生み出していた。ただ本書のような通常のエンタメ作品だと、どうしても重厚さが抜け落ちて、読み心地重視の本となるのだ。

 

とはいえページは滞ることなく進む。読む楽しさは具えた作品である。途中、作者が当時読んでいたという精神啓発的な内容が登場し、その部分は若干の退屈さを覚えたのだが、主軸となる物語展開は飽きることなく最後まで読めた。

 

思えば、私は垣根涼介という作家といい付き合い方をしているのかもしれない。読書の楽しさに目覚めたばかりの学生時代には、軽快に読める彼の王道エンタメ作品を読み漁り、腰を据えた読書の味わいを覚えた今では、重厚さと軽快さを兼ね備えた彼の歴史小説を読んでいる。

 

今後も垣根涼介歴史小説の新作が出たら手に取ることにしよう。読者側の成熟に合わせ作家側も進化してくれると、長く付き合えるなあ。