いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

トゥルー・ストーリーズ

ポール・オースターの実話に基づくエッセイ集『トゥルー・ストーリーズ』を久しぶりに再読した。

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学生のときに購入して以来、折に触れて読み返してきた一冊だ。これまでに少なくても三回は読み返しただろう。文庫本の表紙は焼け、端々がほころんでいる。

 

今回もふと読みたくなったので手に取った。新たなキャリアのスタートに向けビジネス書を読み漁る生活の中で、文学的な滋養を本能的に求めたのかもしれない。思えば、文学から遠ざかった後、そこにまた戻ってくるときにいつも優しく扉を開いてくれたのは、ポール・オースターの文章であったような気がする。

 

そもそもを言えば、私を海外文学の世界へと誘ってくれたのも彼であった。大学時代、ニュージーランドにてバックパッカーとして二週間の放浪をしている最中、たまたま出会った日本人の旅人から、オースターの『ニューヨーク三部作』を読んでみるよう勧められたのが、私と海外文学との邂逅であった。

 

帰国後の私は、そのドラマチックにもたらされた作家との接点に高揚を覚えつつ、すぐさま本屋へと向かい三部作のもっとも短い一冊を手に取った。そこからすぐに私は彼の文章にどっぷりとのめり込み、本棚の一角は時間をかけて彼の作品で埋めつくされていった。

 

私はオースターを味わうなら、やはり小説を読むべきだと考えている。しかしいくつか出されているエッセイ集の中でも、この作品だけは私の特別な一冊となっている。日本独自編集の作品であることを知ると、日本語が読めることに感謝を覚えたほどであった。

 

この本を読むと、どのようにオースターという作家が築かれてきたかがよくわかる。現実世界は小説以上に偶然の連鎖でなりたっている。ゆえに、それら偶然に魅了されたオースターの書く小説が、偶然をキーに展開していくことも必然なのだと思う。

 

この本を再読したおかげで、久しく遠ざかっていた文学小説にどっぷりと浸かりたい気持ちが湧き上がった。勉強の合間にでも少しずつつまんでいきたい。