いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

スクイズ・プレー

ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレー』を読了。
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はっきり言って見逃していた。愛読する本猿さんのブログでご紹介頂かなければきっと気づくことができなかったであろう。感謝するばかりだ。そして本好きの有益なネットワークを有する悦びを再確認できた。

 

『スクイズ・プレー』ポール・ベンジャミン|もっとオースターさんの探偵ものが読みたくなる - 書に耽る猿たち

 

こちらは私が愛好する作家、ポール・オースターが「オースター」を名乗る前に出版していた、幻のデビュー作だ。これをこのタイミングで、文庫として出版する新潮社には心からの賛辞を送りたい。存在は知っていたがまさか日本で読める日が来るなんて。

 

翻訳はいつもの柴田元幸ではないものの、田口俊樹といえばチャンドラーの翻訳もしたことでも知っていた。しかもこの作品はハードボイルドな探偵もの。そういう意味では、打って付けの人選だと納得した。

 

結論から申せば、期待以上に面白い作品であった。方程式を思い浮かべれば、なるほど、私が気に入らないわけがないのである。ポール・オースターの文章が好きで、レイモンド・チャンドラーのハードボイルド作品が大好きなのだから。まさかそれらがかくも融合した作品を読めるなんて。恐悦至極である。

 

それにしても、オースターがここまで本格的なハードボイルド探偵小説を書けるなんて思っていなかった。彼のストーリーテリングの実力を鑑みれば当然とも思えるのだが、とはいえ畑が異なるのでここまでは予想していなかった。本格ミステリを生業としている作家たちは、彼がオースターを名乗り純文学の世界へと鞍替えしてくれたことに、ほっと胸を撫で下ろしているのかもしれない。

 

ちなみにたまたまではあるのだが、我が家の本棚においてポール・オースターとレイモンドチャンドラーの文庫本たちは隣同士に並べていた。今回、この本がポール・オースター作品群の末席に置かれ、レイモンド・チャンドラー作品達との橋渡しの位置に鎮座することになった。偶然ではあるが、こんなにも相応しい並べ方はないのではないだろうか。そのことに気づいたとき、思わずひとりで悦に入ってしまった。

 

久々に読んだがオースターの文章はやっぱり身体によく馴染む。そんなわけで次も彼の別作品を読み始めている。このところいい感じに作品の連鎖が繋げられている。図書館もフル活用。読書の秋もそれを後押し。