『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』読了。
村上春樹の著訳作品だ。彼に最も影響を与えた作家フィッツジェラルドについて書かれたエッセイが8篇と、村上訳による短篇とエッセイが3篇が収録されている。
この本を読んですっかりフィッツジェラルドという存在に魅了されてしまった。というか、このような本を手に取った時点で、もはや虜になりかけていたのだけれど。
彼の波瀾万丈な人生、その中で精神を削りながらに残した珠玉の作品たち。伝説を纏ったそれらに触れるたび、私の心は惑わされ、抗いがたく惹きつけられてしまう。
彼はとにかく『美』を追い求めた人だ。妻にも人生にも文章においても。その点、日本でいう三島由紀夫と同じ匂いを感じた。とにかく旧来の意味での『拘り』が強すぎて、自身の精神にも支障を来している印象を受ける。
でも、その危なげな人物像も魅力のひとつだ。それが文章にも表れている。繊細でいて美しい。ひとつの言葉を取り替えただけで、ガラス細工のように作品全体が粉々に崩れさるイメージが、読んでいて想起されるのだ。
そして本書に収録された短篇『リッチ・ボーイ』は本当にすばらしい。村上もフィッツジェラルドが残した短篇のうち、ベスト3に入るものだと口にしていた。ひとつひとつの言葉選びがとにかく的確で、解像度の高い文章とはこういうことかと、改めて実感することができた。
ポール・オースター、村上春樹、カズオ・イシグロ、レイモンド・チャンドラー。私が敬服する四天王に、遂に加わる作家が現れた。今後はフィッツジェラルドも加えたビッグ5が、私の読書、文章においての基準となる。