いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

ギフト

天からの贈り物、そんな言葉がぴったりな気候だった。

 

寒い冬を超えた我々の眼前には、暖かい陽光と爽やかな風が、色彩豊かな花々と瑞々しい大地が広がっている。

 

場所は万博記念公園。家族と花見のため訪れた。

 

いつもと変わらず、威風堂々と佇む愛しの太陽の塔との挨拶を済ませ、私たちはチューリップが咲き誇る花壇の近くに荷物を降ろした。

 

先日購入したワンタッチで開くミニテントを設置する。中に厚いシートを敷き、我々の拠点がすぐさまできあがった。テントはベビーカーにぶら下げられるほどコンパクトだったのに、今や家族3人が入っても居心地の良い広さになっている。なんて便利な道具なのだろう。

 

我々はここに来る途中で買ったケンタッキーの箱を開け、昼食としてチキンを頬張りはじめた。娘は可愛いキャラクターの顔型パンを齧っている。気持ちよい気候の中で食べる食事は格別だ。そこに空腹という調味料も相まると、天使のラッパの音が聞こえてくるようだった。

 

至福の満腹感に包まれ、シートにごろんと寝そべったのだが、その脇を抜けて娘が外に飛び出していこうとする。慌てて靴を履かせると、目を蘭々に輝かせた娘は、私の手を取って「いこっ」と誘ってくるのであった。

 

気持ちの良い風に吹かれ、花の香りを堪能しながら、音楽を聴き、テントに寝そべり、読書する。

 

そんな天国のような光景を思い浮かべていたのだが、娘の笑顔が秤に乗ったことで、その光景も遙か彼方へと飛んでいってしまった。私は自分も靴を履き、明るい日差しの中へと足を踏み出した。

 

しばし娘について公園内を散策した。色とりどりの花壇を抜け、鯉や亀が泳ぐ池の淵を歩き、敷き詰められた砂利でひととおり遊んだ後、近くを流れる小川を訪れた。

 

娘は最近覚えたタンポポを見つけ、それらを摘んで喜んでいた。私は「ママに持って行こうね」と言いながらも、ふと、あるアイデアが浮かび、娘を川面の近くにまで呼び寄せた。

 

娘のタンポポをひょいと摘まみ「見ててね」と言うと、それを川の水面に浮かべた。透き通った水流は穏やかな早さでタンポポを運んでいく。綺麗な流線形の弧を描き、くるくると廻りながらタンポポは流されていった。

 

私は娘が「うわぁ」と感嘆し、喜ぶ姿を想像していた。しかし現実では、娘は大声を上げ、激しく泣き始めたのである。顔を覗くと大粒の涙で頬を濡らしている。

 

私は慌てて近くに咲いていたタンポポを摘み、流れていったタンポポの代わりに娘の手に収めた。娘からしてみたら、大切なママへの贈り物をパパが川に捨てちゃった、そうとしか見えなかったようだ。

 

そんなことがありつつも、以降の時間はとても穏やかに過ぎていった。テントに戻り、タンポポのプレゼントをした娘は、水場で遊んだり、シャボン玉をしたり。帰り際には遊具コーナーにも足を運び、アスレチックやすべり台ではしゃいでいた。

 

公園を離れる際には少し駄々をこねたが、疲れの方が勝っていたのだろう、ベビーカーに座らせるとものの数分で寝息を立てはじめた。私と妻はその足で近くのキューズモールへと向かい、妻のショッピングに付き合った。


幸い、気に入ったパステルカラーのワンピースが見つけられたようで、入念な試着の末に、購入するに至った。おかげで妻もご機嫌だ。そんな妻を見て私も嬉しい。この日のお出かけが完璧なものとなった瞬間であった。

 

素敵な天気な元、完璧な休日を過ごした。そんなお話。