いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

試される演技力

魔法の杖を持った娘が、私にそれを振りかざす。

 

「うさぎさんに、なあーれ☆」

 

私はその場にしゃがみこんで、ぴょんぴょんと跳ねた。娘はニンマリとご満悦で、自分に備わった魔法の腕前を喜んでいるかのようだった。続け様に杖を振りかざす。

 

「かんがるーに、なあーれ☆」

 

私は少し腰を上げ、前足を腹の前に構えて、ぴょんぴょんと跳ねた。またも魔法が効いたことで、娘は自信を深めたようだ。そこからは矢継ぎ早に魔法を繰り出す。

 

「ねこさんに、なあーれ☆」

  猫になり、ニャーオと鳴く私。

 

「いぬさんに、なあーれ☆」

  犬になり、ワンワンと吠える私。

 

「べびーかーに、なあーれ☆」

  !?!?!?

 

その場で固まり、立ち尽くす私を見て、娘が頭を傾げた。手元の杖を仔細に確認し、何が悪かったのかと彼女なりの分析に頭を巡らせているようだった。声と杖の振りを少し大きくして、ふたたび挑戦してくる。

 

「べびーかーに、なあーれ☆」

 

私ができる表現の幅を超えていた。そのことを娘に謝ると、「え〜」と不服そうな声が返ってきた。

 

「べびーかーに、なればいいんだよ!」と彼女は簡単そうに言うのだが、それをどうやって演じればいいのか、プランが全く浮かんでこなかった。うーん、難しい。