いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

地図をひろげて

地図をひろげて娘がうなり声をあげた。

 

「ここがこうだから・・・あっ、こっちだ」

 

私は娘の後ろについて寝室へと入った。探検隊員はリーダの後に続くのみだ。娘は相変わらず地図を両手にひろげ、そこに書かれている模様と部屋の様子を見比べていた。

 

「ここにかいだんがある、よしここまできた」

 

私たちはベッドの上によじ登り、そこで腰を下ろした。娘は大きなリュックをわきに置く。中には双眼鏡やふたりのお弁当、魔法のステッキやボールなどが入っている。

 

「ここまできたら、あとはもうすこし」

 

娘が皺のついた茶色いクラフト紙を広げる。そこには手書きの(さきほど娘がマジックで描いたものだ)地図が書かれている。私などの一介の隊員では解読不能だが、隊を率いている娘には既に光明が見えているようだ。

 

娘は地図の中央に描かれた小さな四角い箱を指さす。「いまはここ」。そしてその指を斜め上にスライドさせ、次に三日月を指し示した。どうやらそこが我々の目的地のようだ。「よし!」リーダのプランが決まったようである。

 

「ここからジャンプしてとびのろう」

 

私はリーダの後を追ってベッドから飛び降りた。「ついた!」と娘が言ったので、どうやらここが月のようだ。と、隣の娘に目をやると、着地の拍子でうつ伏せになったまま動かなくなっている。着地が問題なかったことは確認している。つまり、これは娘の演出なのだ。

 

私は焦った演技で彼女の身体を揺り動かした。すると、うっすらと娘の目が開かれていく。口元もゆっくりと動きはじめる。

 

「こ、ここは・・・どこ?」

 

月ではなかったのか、という言葉を飲み込むと、私はすぐさま自分の役を切り替える。「わからない。目が覚めたらここにいて・・」

 

「あ、どうくつがある、いってみよう!」

 

かくして我々の冒険シナリオはふたたび描き直された。真っ暗なウォークインクローゼットに向かっていく娘。私は急いでその後を追った。