いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

頼りない父親

娘がベッドから落ちた。

 

背中から倒れるように。50cmほどの高さだ。幸い、娘が上手に受け身をとってくれ、大事には至らなかった。

 

娘は落下の恐怖と衝撃に、しばしのあいだ放心状態となった。ただ、すぐに抱きかかえ、優しく身体をさすってあげると、徐々にその混乱も収まってきた様子だった。

 

そして、落ち着いたことで怖い記憶が蘇ったのか、私に向かって「はやく、たすけてよ」と涙ぐみながら訴えてきた。おそらくは“ちゃんと、助けてよ”という意味合いを伝えたかったのだろう。

 

娘が落下するとき、私はすぐそばにいた。そして彼女が落下するその瞬間も、しっかりと見ていた。ただ、あまりに一瞬のことで、助けることができなかったのだ。

 

この事実は、私に少なからざるショックを与えた。

 

いつも私は娘に対し「パパが守ってあげるからね」と恩着せがましく言っていた。心からそのつもりだったし、とっさにでも身体が動くものとばかり信じていた。

 

しかし現実はこうだ。私の伸ばした腕は空をかすめ、娘は床へと落下した。スローモーションのようにベッドから落ちる娘の映像が、今でも頭にこびりついている。

 

今回はケガもなく、娘もすぐに普段の調子へと戻ったのだけど、これがもっと大きな事故だったとしたら・・。考えるだけで怖くなった。

 

自分がなんとも頼りない存在に思えてきた。いくらサッカーができたって、娘のピンチも救えないほどの瞬発力なんか、無意味だ。いくら仕事ができたって、娘の落下も予測できないほどの危機管理力だったら、無意味だ。

 

現実的に、すべてのピンチから娘を救えないことくらい、わかっている。でもせめて、目の届く範囲では(今回がまさにそうだ)娘を救えるような父親でありたい。

 

おそらくは他の父親も同じ事を思っているのだろう。だからといって、何をすべきかなんてわからない。ただ、この恐怖と悔しさだけは、いつまでも覚えておきたい。