いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

交渉力

橋下徹の『交渉力』を読んだ。
f:id:pto6:20200401080833j:image
ビジネス書を読むのは久方ぶりだ。前作の『実行力』が読み応えある内容だったため、今回も手に取り読んだ。

 

机上の空論ではなく、後付けの理論でもない、実際の交渉で心得ておくべき項目が記されている。これまで弁護士として政治家として、数々の修羅場をくぐり抜けてきた著者だからこそ、説得力を纏い書ける内容であろう。

 

交渉でもっとも重要なことは「これだけは譲れないライン」を事前に明確にしておくことだ。次に相手側の「譲れないライン」も会話の中で掴むこと。その整理ができれば、あとはお互いのラインの折り合いをつけながら、ときに譲歩をしつつ交渉をまとめていけばいいのだ。

 

言うは易しだが、実行するのが難しい。ただ、それを実現させるためのテクニックが本著には記されている。そして、その交渉術を活用し自らが切り抜けてきた実際の局面についても、詳細に語られていくのである。

 

また前作と同様、解説においては誰もが知る政治的な時事ネタがふんだんに盛り込まれ、あの交渉の何がダメだったのか、何が秀逸だったのか等、橋本目線での解説が語られる。それが実に鮮やかで、読み応えがある。

 

ただ終盤においては、アメリカと北朝鮮のトップ、トランプと金正恩の国際交渉を例に、交渉巧者ふたりによる“ケンカ交渉”をつまびらかに解説していく。が、その章については少し読むのが心苦しかった。

 

トップ同士の交渉は綺麗事だけでは通用しない。ときには軍事力を持って相手を脅し、ギリギリのラインで自国の利益を勝ち取らなければならない。

 

それは理解できるし、おそらくは言うとおりなのだろうが、だからといってやはり戦争を交渉道具として使うことについては、どうしても肯定しがたい気持ちだった。

 

本著の締めくくりには、だからこそ日本も憲法9条を改正して、アメリカに頼りっきりの現状から脱却し、日本単体としても強く(経済的にも軍事的にも)なるべきだ、というメッセージが記されていた。過激な論のように見えて、それが厳しい日本の実態なのだろう。ただ臆病な私では、なかなか心が追いついてこなかった。

 

読みやすく実践的で内容のあるよい本だと思う。が、橋本らしくあらゆる物事についてが理論的に、断定的に語られているため、読む人は少し選ぶかもしれない。