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文学パパが綴るかけがえのない日常

雪沼とその周辺

堀江敏幸の『雪沼とその周辺』を読了した。

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愛読している以下のブログで紹介されており、気になったので手にとった。初めて読む作家だったが、数々の文学賞をとり、さらに現在は賞の審査員まで務めているという作家らしい。

 

『雪沼とその周辺』堀江敏幸|品のある美しい文体を味わう - 書に耽る猿たち

 

調べてみると堀江は、エッセイ、短編、長編などその形を選ばず、作品を量産しているようだ。まさに『文章が上手い作家』の特徴である。

 

実際に読んでみると、文章が纏うその静謐な空気感にいっきに引き込まれた。ひとつひとつの文章は長めだが、読みづらさは皆無だ。とりわけリズムの良さを感じるわけでもないのだが、読み進めさせるだけの力が内在している。

 

明確な個性があるわけでもないのに、不思議な文体だなと感じさせられた。他の作品を読んでいないのでまだ判断はできないものの、彼特有の旋律というものがありそうな気がしている。

 

物語で描かれるのはとてもミニマムな世界だが、登場人物たちに寄り添った目線で、終始あたたかく語られている。派手さのない作品だが、このような地味なテーマでも文学賞をとれるのが、実に日本の文壇らしいなと率直に感じた。

 

また解説でも書かれていたが、堀江は人物もさることながら、道具を描くのが実にうまい。いや、道具をうまく描くからこそ、それを使う人物のことがより伝わってくるのだ。こんな人物描写の仕方もあるのかと、とても勉強になった。

 

たしかにこだわりの詰まった一品を見ると、その人のことが透けて見えてくる。友人の家に遊びに行って、その人の部屋をみせてもらえば、彼のことを前よりも知れた気持ちになるものだ。

 

強いインパクトは残さなかったものの、また他の作品も読んでみたいとは思わされた良作であった。またいずれかの機会で手に取りたい。

 

ちなみに、上記ブログの紹介でもう一冊、別の海外作品も購入している。そちらも楽しみだ。