いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

頭皮をもまれて現実逃避

為されるがままに頭皮を揉まれながら、この心持ちは何かに似ている、とぼんやりと思った。

 

そうか、この年末休暇に似ているのだ、と私はすぐに気がついた。今年最後の美容院。私はカットと併せてヘッドスパをしてもらっていた。

 

美容院でしてもらえるマッサージを嫌いな人はいないだろう。私も大好きだ。美容院を選ぶ際にはそのマッサージの丁寧さで通う店を選んだくらいである。プラスアルファであれ重要だ。

 

マッサージをしてもらうと、いつも思う。もう少し、ああ、まだやめないでおくれえ・・と。昨日のヘッドスパの最中にも、終わるまでの間ずっとそんなことを頭の中で唱え続けていた。

 

そのときふと思ったのだ。この思いは年末休暇に対して抱く思いと同じだなと。すぐに終わるのはわかっている。でも願わくばあと少し、もう少しだけ続けと、夜を越すたび強く唱える。

 

私は薄目を開けた状態で、美容師さんの指先にそのすべてを委ねていた。そして心地よいまどろみに包まれながら、なにを意図するわけでもなく、ぼんやりと今年一年を振り返りはじめた。

 

今年一番のニュースは、なんといっても息子の誕生であろう。難しいタイミングでの出産となり、会うまでには時間もかかったが、新しい家族が無事に生まれてくれてとても嬉しかった。

 

二番目は会社での昇進と異動であろう。初めて役職がつき、会社内でも有数の激務な部署への異動となった。そこで己の非力さを知り、改めて自身を見つめ直すきっかけがもたらされた。

 

もう一つ挙げるとすれば、やはりコロナによる家籠もりであろう。その反動もあり家の中の設備は充実した。洗濯機、掃除機、ソファを買い換え、ベランダは芝生とタイルで敷き詰めた。

 

まさかこれほどまでコロナの脅威が続いているとは夢にも思わなかったが、職も失わず、住む家を確保した上で、家族四人が健康に一年を過ごせたこと。それが何より喜ばしいことである。

 

まだしばらくはこの大変な状況が続くであろうが、家族の絆だけは手離さず、顔を覆わずに出歩ける世界が訪れるのを、心待ちにしておこう。

 

そんなことを考えているうちに、ヘッドスパは終了を告げられた。末長く、と唱えていた儚い願いが、侘しくも心の沖合まで流されていく。

 

こんな風に年末休暇も急に終わりを告げるに違いない。気がつけばもう休みも折り返しだ。ほら今日で今年も最後。『年末』が終わるのだ。