いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

遅起きの正月

一年で最も好きな一夜が過ぎ去った。

 

夜更かしをした後の気怠い眠りから這い起きた私は、静かにリビングの戸を閉め、暖房のスイッチを入れた。

 

録画していたカウントダウンライブ。めぼしいアーティストだけを観賞した後にテレビを消す。お茶で口を潤し、半分ほど読んだ文庫本を手に、ソファに身を沈めた。

 

ディケンズの文章は格調高く、流麗で読みやすい。舞踏会にいるような絢爛さと心躍る高揚感を読み手に抱かせてくれる。私は華やかな気持ちになり、勢いのまま二章ほどを読み進めた。

 

本を閉じ、それをソファの上に置く。買いたてのソファなので一切のへたりはなく、余裕を持った表情で私たちを支えてくれている。しかしよくよくみると、表面には小さな毛玉がつきはじめている。ソファの上でむにゃむにゃと眠る娘の姿が思い浮かんでくる。

 

ふと思いたち、カーテンを開け外を覗く。いつもどおりの光景がそこには広がっている。ただ普段よりも道路を流れる車の数は少ないようだ。一台一台のスピードもどこか穏やかに感じられる。誰しもの心にゆとりがあるように思えて、改めてこの日の素晴らしさを実感する。

 

暖かそうな陽光に誘われ、ベランダへと出てみる。とたん冷たい外気に叩かれ、ウッドタイルを踏みしめた足の裏からは冷気が駆けのぼる。

 

新年を祝うような快晴。しかし季節相応に空気は冷たい。私は思いっきり深呼吸をしてみた。清々しい気持ちになる。しかし一夜にしてこの世からウイルスが消滅したわけではないのだと思い直すと、前途多難な一年が始まったことを改めて胸に留めるのであった。

 

ベランダから戻ると、今度はポメラを手にソファに腰掛ける。投げ出した足の裏にはまだジンジンとした冷たさが残っている。私はポメラを開き、頭に浮かぶがままにキーを叩き始めた。

 

フリースタイル。一年の始まりはこれくらい気が抜けててもいいのではないか。私はポメラを閉じ、ふたたび読書へと舞い戻ることとする。