いつかこの日々を思い出してきっと泣いてしまう

文学パパが綴るかけがえのない日常

大人になるのが怖い

「おとなになるのがコワいの」

 

昨夜ベッドの上で、腕まくらをしている娘に唐突に言われた。脈絡もなく飛びだしたその言葉に、どうして?とそのまま聞き返すのがやっとであった。

 

「だって…オナカをきるのがコワいから…」

 

そこまで聞いて合点がいった。娘の発言を導いたのはいくつかのイメージの連鎖によるものであった。

 

ひとつめは、妻を大人のモデルとしたイメージだ。息子を産む際、妻は帝王切開でお腹を切った。それゆえ娘は、自分も大人になるとお腹を切らなくてはならないのだ、と思っているようなのである。

 

ふたつめのイメージは、寝る前にたまたまテレビで見た映像だろう。外科医を特集したドキュメンタル番組にたまたまチャンネルが合ってしまった。その際、手術台で腹を切る映像が映ったのだ。

 

その赤々とした鮮血のイメージがベッドの上で娘の脳裏によみがえったのだろう。先の妻の話と繋がり、冒頭の発言を導いたのであろうと推察された。

 

私は娘の思考回路を辿り、思わず頬が緩んだ。頭を優しく撫でながら、「大丈夫、まだ大人になるには20年近くもあるよ」と娘を安心させようとした。

 

しかし、娘はなおも口を尖らせ、ぷるぷると首をふる。まだコワいのだと言う。私も大丈夫だよと何度も繰り返す。まだまだ大人になるのは先だからと。すると、娘はこう言うのだった。

 

「うっかり、おとなになっちゃうかも…」

 

その言葉を聞いて、私を愉快な気持ちになった。言われてみれば私もうっかり大人になったひとりだ。振り返ってみれば一瞬であった。心構えができぬうちに、いつのまにか大人になってしまっていた。

 

パパがそうならないよう見守っててあげるから。そう言うと、娘は安心したのか少ししたのちに眠りについた。娘の穏やかな寝息を聞きながら、私はしばし、大人になるとは何だろうかとぼんやり考えた。